Windowsでファイル名を変更するときの挙動の変更

 Windowsエクスプローラなどでファイル名を変更するときは,F2キーを押して変更するわけだが,その際のキー操作の挙動が変わってしまった。

 ファイルを指定してF2キーを押すと,ファイル名が範囲指定されるわけだが,いつからか忘れたが,拡張子は除いて範囲指定されるようになっている。

 そこまではWindows7でもWindows10でも同じだったが,その後,「←」キーを押すと後ろから1文字目の前にカーソルが移動していた。

 ところが,いつの間にか,ファイル名の先頭にカーソルが移動するようになった。

 

 以前は,F2キーを押した後,「Home」キーを押すと先頭に移動していたはずで,いろいろググるとそういう説明が出てくる。しかし,「Home」キーを押したときの挙動は同じだが,「←」を押したときの挙動が上記のように変わってしまった。

 どうも,Windows10のアップデート1903を入れてから変わったように思うのだが,別のパソコンではその前からそうなっていたりしていて,いつからそうなったのかははっきりしない。

 

 なぜこうなったのかを調べたが,そのことを書いた記事は見当たらなかった。

 慣れないので困る。

 

 ところで,どのキーを押すとどうなるのかやってみたところ,「←」と「↑」は同じで,ファイル名の先頭にカーソルが移動し,「→」と「↓」も同じで,拡張子の直前でカーソルが点滅する。

 そして,コントロールキーを押しながら「←」か「↑」を押すと,これまでどおり後ろから1文字目の前にカーソルが移動する。

 また,SHIFTキーを押しながらだと,範囲指定されている範囲が1文字少なくなる(最後の文字が範囲指定されなくなる)。

 

 ちょっとしたことだが,こういうところが操作性に大きく関わってくるので,変えるときはきちんとアナウンスしてほしい。

 

 

レコード芸術2019年12月号「モーツァルト三大交響曲の魅惑」

 『レコード芸術』の2019年12月号の特集は,「モーツァルト三大交響曲の魅惑」。本屋で見た瞬間,大いに期待した。こういう企画は購読し始めてからはおそらく始めてだし,何よりモーツァルトが大好きだし,どうも最近,モーツァルトが軽く扱われているような気がしてならなかったので。

 

 しかし,期待は脆くも裏切られた。ざっとページをめくった瞬間,ダメだと思った。

 

 まずは,矢澤孝樹氏の「「3」の魅惑と迷宮」という,いつものようにどうでもいい文章が4ページも続く。三大交響曲とほとんど関係ない話が延々と。ほんと勘弁してほしい。

 

 次が西原稔氏による「18世紀交響曲史」。これは10月号の交響曲特集でやる内容だろう。内容は立派だが,モーツァルトの三大交響曲には直接関係ないことがこれまた延々と4ページも。

 

 そして,安田和信氏による「モーツァルト交響曲史」。ここからが本題。導入としてはこれだけで十分。4ページ。

 

 そしてやっと三大交響曲のページ。それぞれたった3ページずつ。

 第39番が相場ひろ氏,第40番が広瀬大介氏,第41番が寺西肇氏。広瀬氏だけ毛色が異なり,編集者がコントロールできてないことがはっきり分かる。

 

 その後は落穂拾ひで,本田裕暉氏による「三大交響曲の先駆け」が3ページ。

 

 と思いきや,小室敬幸氏による「《ジュピター》フィナーレ徹底解剖」が来る。まさにこの特集ならではだが,《ジュピター》の第4楽章だけで4ページは長い。いや,いいのだが,《ジュピター》の第4楽章だけ?

 タイミングを示すのに使われるCDがアーノンクール指揮ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス盤なのだが,アーノンクールの演奏の特徴を書いているわけではないので,こういうときはもっと広く知られている(売れている)CDにすべきではないか。10月号の交響曲の特集のときもそうだったが,読者のことを考えてない。編集者と執筆者の自己満足にしか思えない。どうしてもアーノンクールのを使いたいのなら,レコ芸読者なら誰でも持ってそうなCD(例えば,《運命》ならクライバーとか)のタイミングも併記すべきだ。

 

 最後は小宮正安氏による「1788年のモーツァルト」。これが一番まともな内容だったかもしれない。

 この文章の内容を分解して,より詳しくすれば,充実した内容になったと思う。

 

 つまり,せっかく三大交響曲の特集をしているはずなのに,三大交響曲のことはちっとも書いておらず,どうでもいいことばかりで,欲求不満になる。明らかに編集者の力量不足だろう。

 各交響曲の基本データも書いてないし,謎とされてきた作曲の経緯のは,それぞれの記事に最近の説が断片的に書いてあって(小宮氏のものが一番詳しいが),重複している。名盤を挙げていてもわずかなコメントだけで比較した書き方にはなっていないし,そもそも各交響曲の魅力や聴き所,逸話,往年の指揮者などによる評価(コメント)といったものがほとんど書かれていない。

 もっとも,こういうことを書ける評論家が減ってきているということもあるのかもしれない。例えば,かつての三浦淳史さんとかが書いてくれたようなもの。

 

 

 このところ,題材はいいが中身が全然ダメという特集が続いているので,残念だ。

 もっと,初心者でも取っ付きやすい記事(そして,マニアでも「そうだったか!」とうならせるような)を載せないと,読者はどんどん減ってしまうのではないか。

 

 結論。「モーツァルト三大交響曲の魅惑」というタイトルには偽りあり。全然魅力について書いてない。

 

 

SONY Music Center for PC 2.20

 2019年10月24日にリリースされたソニーの音楽管理ソフトMusic Center for PC 2.2.0の使用感について,気が付いたことから雑多に書いておく。

 比較するのはMusic Center for PCのver.1。ver2.0と2.1はほとんど使っていないので。

 

 起動はver.1より圧倒的に速くなった。比較にならない。Media Goほどは速くないが,十分使用に耐えるレベルになったと思う。

 ver.1は,何分も待たされたあげく,曲が1曲も表示されないということがあったが,さすがにそんなことはなさそう。

 

 曲の取込みは,ver.1からバージョンアップしたときにライブラリの取込みをしたときの様子からすると,それなりに速そうだ。もっとも,そもそも取り込むという概念がないMedia Goとは比較にならないが。

 

 終了時の動作も,ver.1やx-アプリのように,曲を取り込んだあとはライブラリの更新に何十分もかかり,いつまでもパソコンをシャットダウンできないというようなバカなことはない。

 

 

 ライブラリをリスト表示にしたときは,ver.2.0と違って,かなりまともになったと思う。文字や表示間隔が小さくなったので。この辺は,曲を大量に取り込んでいる人と,それほど取り込んでいない人では感じ方が違うのだろうが。

 それよりよかったのは,並べ替えの自由度が増えたこと。

 x-アプリやver.1では,並べ替えの条件は1つだけで,例えばアーティスト名で並べ替えた場合,その中でのタイトルの並び順はリリース年順にしかならなかった。

 しかし,ver.2.2では,先にタイトル順で並べ替えておき,その後アーティスト名で並べ替えると,同じアーティストの中での並び順はタイトル順となる。先にリリース年で並べ替えをしてからアーティスト順にすると,同じアーティストの中での並び順はリリース年順となる。これは便利だ。

 

 

 ver.2.1から,「ライブラリーからリンク切れで再生できない曲を一括検索する機能」が追加されていた。

 自動で追随してくれるMedia Goだとなくてもあまり困らない機能なのだが,ファイルの管理方法が根本的に違うのでしょうがない。

  フォルダやファイルの名前や場所を変更したときに便利そうだと思ったが,たいして便利ではなかった。

 単に検索してフラグを付けるだけ。そのまままとめてライブラリから削除できる,といったことはできない。

 なので,曲表示にして「情報」で並替えし,そこでまとめて削除するしかない。

 

 

 ver.2.2の目玉は,ATRACファイルをFLACAACに一括変換できることだろう。

 まず,FLACAACのどちらに変換した場合でも,完全にギャップレス再生に対応していることが確認できたAACウォークマンで再生した場合に限るかもしれないが)。Media GoATRACからFLACに変換したときは不完全だった(曲間にノイズが入ることがある)ので,大きな進歩だ。

 

 一括変換する場合,FLACAACかと,返還後にATRACファイルを任意のフォルダに移動させるかどうかしか選べない。

 AACでは,ビットレートは選べない。試しに256kbpsのATRAC 3 PlusのファイルをAACに変換した場合はビットレートが256kbbpになっていた。同じビットレートになるのか,256k固定なのかは,これから検証したい。

 

 FLACへの変換がどのくらい使えるのか,やってみた。

 まず,49,000曲ほどライブラリにある状態で,9,700曲ほどのATRAC3Plusのファイルを取り込んだ。取り込むのには10~15分ほどしかかからなかった。これがver.1やx-アプリなら,何日もかかっただろう。

 この取り込んだATRACファイルを一括変換でFLACにしたところ,およそ半日(12~13時間)かかった。夜寝ている間にできるくらいなので,許容範囲だろう。問題は,途中でフリーズしないかだが,これも大丈夫だった。

 しかし,変換後に問題が発生した。

 アートワークが反映されないアルバムが大量に発生したのだ。というか,変換後はアルバムごとにアートワークが反映されるのだが,それが完了する前にプログラムが勝手に終了してしまったのだ。

 一度ライブラリから削除し,改めて取り込めば大丈夫なので,アートワークのないアルバムを一旦全部ライブラリから削除し,取り込み直したら,同じ現象(プログラムが勝手に終了)が発生し,時間の無駄になってしまった。

 そこで,作業を分割してやってみたところ,無事完了することができた。

 

 

 編集機能はまだまだ改良の必要がある。

 例えば,CDから曲を取り込む際や,取り込んだ曲を編集する際に,F2キーを押して曲名等を変更することができないのは,非常に不便だ。

 いちいちプロパティを表示させないといけない。

  曲の結合ができないのも不便。うちのカーナビはギャップレス再生に対応していないので,よく聴く曲は結合したファイルにし,ギャップなく聴けるようにしておきたいのだ。

 

 だいぶマシにはなったが,まだまだMedia Goを手放すわけにはいかないことが分かった。

 当面の使い方としては,リッピングと編集はMedia Go,再生はMusic Centerというのがいいと思う。

 再生するにはリスト表示と柔軟な並替えができるのが非常に便利だし,何よりDESS HXが使える。

 ウィンドウの上の方に大きな字で「曲」とか「アルバム」とかの表示が出るが,その右側が何もなく空いていて,もったいない。ver.1などのようにスペアナを出せるようにするか,せめてレベルメーターでも表示できるようにすると格好いいと思う。

 それと,「停止」ボタンがなく,「一時停止」だけで,別なアルバムの中の曲を再生しようと思うとダブルクリックしないといけないのは不便な感じがする。ワンクリックで選択,再生ボタンで再生というのが普通じゃないだろうか。確かに,スマホのアプリなどではこういう流れなのかもしれないが,パソコンで使うには不自然に思う。

  あとは,起動するたびにリストの一番上が出るのも変だ。前回再生(選択)していたアルバムのところが出るようにしてほしい。

 

 

本当のATRACの終焉が来た

 2019年11月発売の新型ウォークマン(ZX500シリーズとA100シリーズ)が,ついにATRAC系フォーマット非対応になるらしい。

 いつかは来るとは思っていたが,ソニーには,それならそれで救済措置をきちんと考えてほしい。つまり,今あるATRAC系のデータをどうするかということだ。

 

 しかし,残念ながら,これまで散々迷走してきたソニーに期待するのは厳しいので,自分で何とかしないといけない。

 ATRAC系は非可逆圧縮なので,それを同じ非可逆圧縮のmp3やAACに変換したのでは,音質の劣化は避けられないし,ATRAC系の売り(?)であったギャップレス再生には完全には対応できない。

 となれば,FLACに変換して引き続き聴けるようにするのが一番いいということになる。もちろん,著作権保護されていないファイルしか無理だろう。幸い,既に著作権保護された曲は持っていないので,問題ない。

 

 幸い,今の最悪なMusic Center for PCでなく,前のバージョン,そしてMedia Gox-アプリがある(SonicStage CPは,Windows 10の1903にしたら使えなくなった)ので,これらを駆使して何とかしようと思う。

 

 一番簡単なのは,Media Goを使って直接FLACに変換する方法である。これはいろんな方が書いているので,Media Goさえ入手できれば,非常に簡単な方法である。ビット数とサンプリング周波数を間違えさえしなければよい(ATRAC系は16bit/44.1kHzだが,16bit/48kHzも選べる)。

 ところがここに大きな落とし穴があった。Media Goで直接FLACに変換すると,曲間にノイズが入る場合があることが分かったのだ(Media Goはギャップレス再生には不完全にしか対応していないので,ウォークマンに転送して検証した)。

 これには困った。

 もっとも,曲の両端が無音の曲であれば実質的に問題はないだろうが,オペラなどではダメだ。試したところ,「ポツッ」という音が半分以上の確率で入ってしまっていた

 解決する方法が一つあるが,かなり手間にはなってしまう。

 一旦WAVファイルに変換し,それを更にFLACに変換すれば,曲間にノイズは入らない

 まず,x-アプリ(かMusic Center for PC)でWAVに変換する(Media GoはWAVに変換できない)。そしてこれをMedia GoFLACに変換すればよい

 とりあえず,x-アプリでWAVに変換すれば,曲間にノイズが入らないことは確認できた。Media GoでWAVからFLACに変換する際にはノイズは入らないはずなので,大丈夫なはずだ。

 これがおそらく一番確実だが,WAVはタグ付けが不完全だし,直接FLACに変換するのに比べると,時間も手間もかなりかかってしまう

 Media Gox-アプリに変換するファイル以外を取り込んでいなければそれほど面倒ではないが,ほかに膨大な曲がある中で変換作業をするのは,一気にやろうとすると曲が迷子になってしまいそうで怖い。

 

 ソニーには,ATRACに最後まで責任を持ってほしい

 ぜひ,ATRAC系ファイルをほかのフォーマットに変換するための専用のソフトを作ってもらいたい。それがユーザーに対する責任だし,これまで散々迷走したために(今も迷走しているわけだが)迷惑をかけたユーザーから信頼を得る方法の一つになる。

 どうせだから,FLACだけでなく,MP3でもAACでもWAVでもMQAでも,手軽に完璧に変換できるソフトを出してほしい。例えば,ギャップレス対応のために一度WAVに変換するようなモードがあってもいい(その分変換には時間がかかるが,タグ情報を完璧に引き継いで自動でやってくれればいい)。

 以前は,MP3に変換するための「MP3 Conversion Tool」をいうのを出していたこともあるではないか。

 

 本当にお願いします。ソニーさん。その上で,Music Centerを何とかしてくれれば,これからも安心してウォークマンを使い続けられると思いますよ。

 

 今回の新型の発表を受けて,まだ引き続き発売されるA50シリーズを買おうかとも思ったが,今使っているF887がまだ使える(バッテリー交換したので)うちはどうしようかと悩んでいるところ。

 しかしやはりいずれはATRACは終わるので,F887が壊れるまで,FLACに変換して来たるべき日に備えようかと思う。

 

(追記)

 いまだにMusic Center for PCはバージョン1を使っていて,バージョン2にする気がさらさらなかったので気が付かないでいたが,2019年10月24日リリースのバージョン2.2.0にATRACファイルを一括してFLACAACに変換する機能がついていた

 このアップデートではかなり大がかりな変更が行われていて,ソニーのホームページによると,アップデートされた主な内容は次のとおり。

  • Walkman® NW-A100シリーズとNW-ZX500シリーズを対応機器に追加
  • Music Center for PC の表示色を変更する機能を追加 (ブラック、レッド、ブルー、グリーン)
  • マイライブラリーをバックアップおよび復元する機能を追加
  • マイライブラリーのアルバム、最近追加した曲、プレイリスト画面上で一覧を表示する機能を追加
  • マイライブラリー内のATRACを検索し、AACまたはFLACに一括変換する機能を追加
  • マイライブラリ―内でリストの表示間隔を変更する機能を追加
  • マイライブラリ―内の曲をFLAC形式で保存する機能を追加
  • マウスホイールで音量調整できるように改善
  • 画面解像度が低い場合の使い勝手を考慮し、メインウィンドウの最小サイズを変更
  • Media Goで作成したプレイリストをライブラリーから削除したにも関わらず、再び取り込まれることがある問題を修正
  • その他、動作安定性、パフォーマンスの向上

 

 さっそく,サブ機に入れていたMusic Center for PCをアップデートして,幾つかのATRAC 3 PlusのアルバムをFLACに一括変換してみた。

 使い勝手なども含め,詳しくは改めて書こうと思うが,Media GoFLACに変換したときとは異なり,曲間でノイズが発生するということはなかった

 現時点での問題は,変換する曲を選べないので,1万曲近くあるファイルを変換するのにどのくらいの時間がかかるのか,ということだ。

 

 少なくとも,バージョン1よりは良くなっているように思えたので,メイン機のパソコンもアップデートしてみて,動作を検証してみようと思っている。

 

 

Windows Update 1903の悪影響

 Windows 10のMay 2019 Update (1903)を適用してから,いくつかのソフトの動作が遅くなって困っている。

 古いソフトに顕著で,何とかしてほしいのだが,何とかしてもらえなそうなソフトばかりなので余計に困っている。

 

 実はいまだにSONYのMusic Centerは旧バージョンを使っている。新しいのは,機能も省かれたし,何よりインターフェイスが最悪で,全く使う気にならず,サブ機のパソコン(Windows 7)でテストはしているが,メインのパソコンは旧バージョンのまま。なので,新バージョンだとどうなのかは分からないのだが,1903を適用してから明らかに遅くなった。

 ほかには,SonicStage CPが使えなくなった。

 しょうがないのでx-アプリを使っているのだが(ATRAC 3のデータがたくさんあるので),これがまた遅くてどうにもならない。

 

 一方,Media Goは全然問題なしである。

 何が違うのか,とにかく解決策を知りたいのだが,すっかりマイナーなソフトになってしまったので,ググっても全然出てこない。

 1903の前に戻すしかないのだろうか。

 

 

ネルソンス指揮ウィーン・フィルのベートーヴェン交響曲全集

 アンドリス・ネルソンスウィーン・フィルを指揮したベートーヴェン交響曲全集が発売された(ドイツ・グラモフォン UCCG-40091/5)。

 国内盤はMQA/UHQCD(第1番~第5番,第9番(24bit/176.4kHz),第6番~第8番(24bit/96kHz))で,輸入盤は通常のCDとブルーレイオーディオ(24bit/96kHz)のセット。

 ブルーレイオーディオは,再生が面倒だし,パソコンでリッピングできない(特殊なソフトを使えばできるが)ので,将来性を考えてもMQA-CDの方が有利だと思うが,値段が全然違うので,輸入盤を購入した。

 まだ全部は聴いていないのだが,現時点での感想を。

 

 まず,このチクルスは,2016年1月の第3番《英雄》から始まるはずだった。

https://www.universal-music.co.jp/andris-nelsons/news/2016-05-23_news02/

 このときの演奏会の感想は既に書いたが,その時はあまりいい印象は持たず,期待できないなと思ったのだが,発売されたCDでは,この時の演奏ではなく,2019年4月に新たに録音されたものが収録された。

 その辺りのことはユニバーサルのHPを見ても書いてないし,レコード芸術の11月号の記事でも全く触れられていない。

 大々的に発表したのだから,理由が知りたいところだ。

 なお,ユニバーサルのHPをはじめ,ライヴ収録と表示されているが,少なくとも録り直しとなった第3番はライヴではない。その時期に演奏会をやっていないからだ。ほかの曲も,演奏会に合わせて収録されているが,ノイズはほぼ皆無であり,スタジオ収録に近いと思われる(ティーレマンの全集とは違う。ティーレマンのは結構会場ノイズが大きかった)。

 

 ざっくり言うと,予想に反して,全体としては気に入った。

 HIP系の演奏でなく,ベーレンライター版でもない。

 両端楽章とスケルツォは元気がいいが,だからといってものすごく速いテンポで突っ走るわけではない。緩徐楽章は遅め。じっくり,こってりという感じ。音を長めに取るので,せわしない感じがないのがいい。

 だからといって,ティーレマンとは違い,中身は濃いように感じた。

 全体にバスが強めで,再生環境によってはうるさいくらいに感じることもあった。

 そして何より特徴的なのは,ホルンをかなり豪快に鳴らしているところ。ウィンナ・ホルン好きにはたまらないだろう。第九が特に印象的で,1987年のアバドとの来日公演を彷彿とさせるところがある(あれほどすごくはないが)。ウィーン・フィルの音が好きで,それを聴かせたいんだな,と思わせる演奏だ。ただ,どうせならもっと決然と鳴らしてほしいと思ったところもあって,だらしない感じがするところもあった。

 もう一つ気になるのは,ときどき力みすぎて流れが悪いところがあるところ。この人のクセだろう。

 今どきの演奏にしては珍しいこととして,リピートを省いている楽章があることも挙げられる。《田園》の第1楽章,第7番の第1楽章と第4楽章,第九の第2楽章でリピートをしていない。特に《田園》の第1楽章は珍しい。

 

 楽譜のことはよく分からないが,ベーレンライター版でないのは聴いていて明らかで,ほかには次のような特徴があった。

 まず,有名な《英雄》の第1楽章の終わり近くのところは,トランペットに旋律を吹かせている。2016年のライヴでは1回目だけ最後まで吹かせて,2回目は吹かせないというやり方だったが,CDでは2回とも吹かせている。

 問題の多い第九は,第1楽章の第2主題のフルートとオーボエはBフラット(ブライトコプフ版),第2楽章では控えめだがホルンで補強しているように聞こえる,第4楽章のホルンのリズムは旧来通り,といったところ。また,レコード芸術11月号の「最新盤レヴュー」で松平敬氏が指摘しているとおり,最後の音でピッコロの音を1オクターブ上げている。これはアバドの1996年盤でもやっている。ネルソンスは,第九の最後の方で随分ピッコロを強調しているし,第5番の第4楽章でも同じようにかなりピッコロを強調させているので,ピッコロが好きなのだろう(下品に聴こえるのだが)。

 そのほか,詳しくはレコード芸術の12月号の月評で金子建志先生が解説してくれるだろう。

 

 いち音楽ファンとしては楽しめたが,スタイル的に評論家泣かせの全集になるのではないかと思う。もっとも,ティーレマンほど否定的な意見も出ないようには思うが。

 

 

最悪だった大友版わらじ音頭

 今さらだが,今年の福島わらじまつりから,わらじ音頭と踊りがリニューアルされた。お披露目は6月の東北絆まつりで。

 

 非常に残念な音楽と踊りになってしまった。

 全然盛り上がらない。

 今までのダンシングそーだナイトは確かにシュールだったが,盛り上がってはいた。

 大友版は,ノリは悪いし,歌は細切れでどんな歌だかさっぱり分からないし,踊りは子供でも年寄りでも踊れますといった感じ。

 

 おそらく,踊りはみんな勝手に振付を変えて踊るようになるだろうが,音楽はどうにもならない。

 いつかはまたリニューアルと称して大友版は駆逐されるだろうが,すぐというわけにはいかないから,それまでわらじまつりがどうなるか,心配だ。

 

 東北絆まつりでも,わらじまつりが圧倒的に見劣りしていた。

 これから毎年こんなのでは,見る人も踊る人も減ってしまうのではないか。

 

 大物になってしまった大友氏には,誰も文句をつけられなかったのだろう。

 残念でしかない。

 

 

カラヤンの遺産 ブルーレイ

 2019年7月10日にソニークラシカルから発売になったカラヤンの遺産シリーズのブルーレイから,1985年11月24日の万霊節メモリアル・コンサートでのブルックナー交響曲第9番が入ったディスク(SIXC24)を買ってみた。

 

 DVDは持っていなかったので,比較はできないが,収録時期が約1か月後と近く,同じくZDFが収録したジルヴェスターコンサートと比較しながら視聴した。

 

 まず,今回の目玉はbシャープによりリ・レコーディングされた音声にあるはずだが,パッケージのどこにも記載がない。音声(3種類)の2番目として「2.リニアPCM/STEREO (48kHz/24bit) [remaster]」と小さくかいてあるだけ。

 ちなみに,1番目は「1.リニアPCM/STEREO (48kHz/24bit) [original]」,3番目は「DTS HD Master Audio/5.0ch サラウンド (48kHz/24bit)」と書いてある。

 何というソニーのやる気(売る気)のなさ。

 レコード芸術の記事を読まなければ,単なるリマスタリング音声「も」入っているだけ,としか思えなかった。

 

 その音声だが,聴いた印象としては,リ・レコーディングの方が音の固さが取れ,左右の広がりが大きくなったように感じた。

 ただ,どれだけ違うかと言われると,はっきり言ってよく分からない。

 

 画質は,DVDよりもざらつきが少なく滑らかになった感じはするが,元がSD画質でのビデオ収録なので,解像度がよくなった感じはない。

 以前,NHKがフィルム収録された70年代のものをHD化したときのような衝撃は,全くない。

 それに,通常,HD化すると,字幕などは綺麗になるものだが,この辺は全く手つかず。帯に「LD(レーザーディスク)用のマスターからアップコンバートしてBD(ブルーレイディスク化)しております。収録が1980年代でビデオ時代の画質のため,オリジナル・マスターテープに起因する映像ノイズがある場合もございます。ご了承ください。」と書いてあるが,そのとおりとしか言いようがない。

 つまり,特別なことは何もしてない,ということだ。

 

 結論を言うと,お金持ちの人以外,DVDを持っているなら,買い直す必要はない

 大変残念だ。

 

 

 今回のbシャープによるリ・レコーディングの記事を読んで思ったのは,確かに面白いが,流行らないだろうな,ということ。

 

 それならいっそ,誰かが録音し直したらどうかと思った。いわゆる「完コピ」というやつだ。録音だけでない。演奏会でやってもいいし,「題名のない音楽会」や「らららクラシック」みたいなテレビでやってもいい。みんなの前で,似てるか判定してもらってもいい。

 クラシックの世界では,ありそうでなかったが,オケの技術が上がったと言われる今日,昔のカラヤンベルリン・フィルを完コピするというのはどうか。ほんと,誰かやってみてほしい。できればアンチ・カラヤンだという指揮者にやらせてみたい。「できるけど好きじゃないからこういう演奏はしない」のか,「やっぱできない」のか。

 シン・ゴジラのサントラを作るときに,似たようなことをやっている。結局は映画では使わなかったようだが,伊福部昭作曲の曲を,オリジナルのモノラルのサントラに,そっくりに演奏したステレオの録音をかぶせたのだという。

 

 ほんと,誰かやらないだろうか。例えば,最近1966年の来日公演がCD化たが,あの中の何かの曲を,日本の指揮者とオーケストラが完コピして録音するのだ。やっぱりできないかな。

 

 

カラヤンの遺産1982~1988

 前にも書いたとおり,カラヤンが1980年代にテレモンディアル社で制作した映像作品のうち7タイトルが初めてブルーレイ化された。

 

 まだ買っていないのだが,「レコード芸術」8月号150ページ~153ページに,西村祐氏の記事が出た。

 

 それによると,今回のブルーレイ化の一番のポイントは,bシャープという会社がによる音声の「リ・レコーディング」だそう。大阪でのライヴを除く6タイトルにこの「リ・レコーディング」の音声が入っているとのこと。

 ごく簡単に言うと,録音会場でオリジナルの音声を大音量で再生し,それを改めて録音し直すというもの。

 ありそうでなかったやり方だが,クラシック以外の世界なら,あらかじめ録音していたものを会場で流して,それを含め映像収録するというのは普通にあることなので,珍しい発想ではないのかもしれない。しかし,クラシックでは初めてではないか。

 大阪のライヴも,ホールは今もあるのだからやってもらいたかった。もっとも,ほかのタイトルと比べて映像と音声のクオリティが段違いに低いので,そっちの方が理由だったのかもしれない。

 

 残念ながら,西村氏の記事では,「実際に比較してみると,豊かだが混濁しないホール・トーン(bシャープのスタッフはドライと感じていたらしい)はそのまま,楽器そのものの音にはフォーカスが定まり,とても自然でワイルドな音になっている」と簡単なコメントがあるだけで,個々のタイトルごとの評はない。

 映像も,「LDマスターからアップ・コンバートされ,とても見やすく,それでいて現代風のクリアなものではない,陰影に富んだ美しさを持つ。全体に明度は高くないけれど,カラヤンの映像に対する美学をふんだんに味わうことができる仕上がりである」と,こちらもブルーレイ化でどのくらい画質がアップしたのか,詳しい比較がされていないのが残念。

 ぜひ,オーディオのページでオーディオ評論家の方による詳しい記事を載せてほしい。

 

 それにしても,ソニーはどのくらい力を入れているのだろうか。レコード芸術の広告では「日本独自企画」とあるが,音声については「ベルリンのbシャープ社によるリマスター音源」も収録と書いてあるだけで,リ・レコーディングの説明は一切なし。

 ソニーのホームページでは簡単な説明があるが,どれだけ画期的なものかといった力の入った説明ではない。

 

 

 今年はカラヤン没後30年,生誕111年ということで,昨年あたりからライヴ音源がCD化されている。

 日本では,キングレコードからNHKが1960年代の来日公演時に収録したものを中心にCD化している。とても買い切れないのが残念,音もそれなり。

 

 個人的には,1970年代後半から1980年代のライヴのCD化をぜひぜひお願いしたい。いまはほとんど手に入らないと思うが,以前は1980年代のライヴがかなりの枚数CD-R盤で出ていた(海賊盤と言っていいのだろうが)。

 おそらくFM放送されたものなどをCD-Rにしたものなのだと思うが,ものにもよるが,かなり高音質のものもあって,放送局に音源が残っていれば,最新録音にも負けないかなり高音質のものが期待できるはず。

 映像も,NHKやZDF,ORFなどに残っていないだろうか。

 特に日本だと,1960年代のカラヤンが好き,という方が多いのかもしれないが(そういう方々は,年齢層も高いし,購買力もあるのだろう・・・),最晩年の演奏もお願いしたい。

 

 

北方謙三「岳飛伝」読了

 昨日,「岳飛伝」をやっと読み終えた。

 

 第8巻まで読んだところで一度感想を書いたが,そこで書いたことに特に変わりはない。

 とにかく長かった。疲れた。が,まだ「盡忠報国」が残っている。早く読まないと。

 

 「水滸伝」を読み始めたのは,確か2007年の夏頃。そこから,14年たったことになる。「水滸伝」は3回,「楊令伝」は2回読んだ。

 最初の「水滸伝」は,一気に読んだような気がする。確か,文庫版の刊行に追いついてしまい,途中からは図書館で借りて読んだはず。その後,図書館で借りて「三国志」を読み,1年後くらいにもう一度「水滸伝」を読んだ。

 さらに,「楊家将」,「血涙」を読んだが,「楊令伝」を読み始めたのは,だいぶ間が空いてからだった。そもそも,文庫版は「水滸伝」の19巻が出てから3年くらい間が空いているのだから,しょうがない。

 「楊令伝」もまた文庫版の刊行に追いついてしまったのだが,このときは図書館で借りたりはせず,途中何ヶ月か間を空けて,後半は一気に読んだ。そして,既に「岳飛伝」の1巻は単行本で出ていたので,これだけ図書館で借りて読んだ。

 それから「岳飛伝」の文庫版が出るのを待ったが,出る気配がないので「水滸伝」をもう一度読んだ。

 しかし,「岳飛伝」はなかなか出ず,また何年も空いてしまった。いよいよ「岳飛伝」を読もうとしたとき,その前に「楊令伝」の15巻だけ読んだのだが,その前をさっぱり覚えていないことに気が付き,「楊令伝」を最初から読み直したので,「岳飛伝」を読み始めるのがだいぶ遅くなってしまった。

 

 「楊令伝」でかなり疲れていたので,「岳飛伝」は最初からテンションが上がらないまま読み始めた。

 そこから,8巻までの感想は,以前書いたとおり。

 月に1冊読むのもしんどかった。しんどくなりすぎて,途中,読むのをやめてしまったりもした。

 それでも,13巻あたりから,終わりが見えてきたせいか,急にスピードアップできて,週1冊とまではいかないが,かなりペースが上がってきた。主に「水滸伝」からの登場人物の死人が増えてきたからだろう。どんどん先が知りたくなってきたからだ。

 

 そして,最後までほぼ週1冊というペースを崩さずに,読み終えることができた。

 

 ほんと,長かった。そして,残念なことに,「楊令伝」で童貫が死んだ後あたりからは,かなり面白くなかった。

 理由は,前に書いたことがそのまま当てはまるが,付け加えると,やはり岳飛のキャラが結局よく分からなかったというのが一番だろう。それに,魅力ある新しいキャラがほとんど出て来なかった。せいぜい,程雲くらいだろう。岳飛や秦容の部下は,名前を覚えるのがやっと。それも,誰が誰だかさっぱり分からない。個性がないのだ。

 「楊令伝」以前からのキャラのことも書かないといけないので,手が回らなかったのだろうか。

 もっと早くに殺しておくか,説明だけでわざわざ登場させるのはやめればよかったと思う。無駄だなと思うエピソードが多すぎて,その分,岳飛たちが薄くなってしまった。

 

 キャラもだが,設定自体にもだんだん無理が出てきて,読んでて辛かった。

 「物流」がキーワードだったが,それだけで説明しきれるほど世の中簡単じゃない。「物流」,「物流」と言葉が出てくるたびに,白けてしまった。

 

 そして何より,岳飛と秦容はなぜ戦っているのか,途中から全く分からなくなってしまった。なぜいつまでも南宋と戦って,金に向かわないのか,全く分からない。

 だから,あの終わり方なのだろう。全く無責任な終わり方だと思う。将軍が死んだからといって終わるような戦じゃない,と繰り返し言っておきながら,最後は沙歇が死んだから終わり,というのは全然納得がいかない。だいたい,金はまだまだ滅びないし。

 

 ラストは悪くなかった。岳飛の最後も,もっと丁寧に書いてほしかったとも思うが,悪くはなかった。しかし,その前は,はっきり言ってクソだ。残念だ。北方先生力尽きた感が強く,がっかりした。

 ほかの登場人物がどうなったのかも,もっとちゃんと書いてほしかった。

 そして何より,梁山泊はどうなったのだ???南の方も???

 

 今,一つだけはっきりしている。「チンギス紀」は読まない。

 

 もう一つ,どうせ読むなら,「楊家将」と「血涙」をお勧めする。「水滸伝」は面白いが長すぎる。同じワクワクと感動をより短い時間で味わえるのはこの2つだと思う。

 

 

ベルリン・バロック・ゾリステンwith樫本大進 ジョナサン・ケリー(福島市音楽堂)

 今日(2019年6月29日),福島市音楽堂で「ベルリン・バロック・ゾリステンwith樫本大進 ジョナサン・ケリー~ライナー・クスマウル・メモリアル・ツアー2019~」を聴いた。

 15時開演。開演前は霧雨で,終わった頃は本降りという生憎の天気だったが,客席は9割以上埋まっていたように見えた。

 

 曲目は,以下のとおり。

① J.S.バッハ:フルート,オーボエ・ダモーレとヴァイオリンのための三重協奏曲ニ長調BWV1064(ヘルムート・ヴィンシャーマン版)

② J.S.バッハブランデンブルク協奏曲第5番ニ長調BWV1050

③ J.S.バッハオーボエとヴァイオリンのための協奏曲ニ短調BWV.1060R

(休憩)

④ ヴィヴァルディ:協奏曲集《四季》Op.8-1~4

⑤(アンコール) ヴィヴァルディ:協奏曲《冬》Op.8-4~第2楽章

 

①の原曲は3台のチェンバロのための協奏曲第2番で,ヴィンシャーマンが編曲した珍しいもの。CDは,ヴィンシャーマンが録音した2種類(うち1978年の録音では,ライナー・クスマウルがソロを弾いている)くらいしかないよう。ちなみに,ベルリン・バロック・ゾリステンは,2000年に3つのヴァイオリンのための協奏曲版を録音している。ソロは,フルートがスザンネ・ホプファー=クスマウル(故ライナー・クスマウル夫人),オーボエ・ダモーレがジョナサン・ケリー,ヴァイオリンがヴィリ・ツィンマーマン。

②のソロは,チェンバロがラファエル・アルパーマン,フルートがホプファー=クスマウル,ヴァイオリンがツィンマーマン。

③のソロは,オーボエがジョナサン・ケリー,ヴァイオリンが樫本大進

④のソロは,もちろん樫本大進

樫本さんは,休憩後の④から登場かと思ったら,③から登場。ツィンマーマンは③と④ではコンサートマスターとして演奏に加わっていた。

②以外では,第1ヴァイオリンに町田琴和さんが出演。

 

①の最初の音から芳醇な素晴らしい音がホールに広がって,さすが超一流の演奏だと思わせるものだった。

モダン楽器で,ヴィヴラートありだが,もちろん,今どきの演奏スタイルで,キビキビした「攻めた」演奏。とはいえ,かなりホールトーンをうまく使ったたっぷりした音。

特に《四季》での樫本さんはかなり攻めていたが,それでもみんな上品さを失わないのはさすが。気になったのは,樫本さんのソロの音がかなり大きいので,ソロからバックのトゥッティに移る場面で,何度か,ソロより音が小さく,おやっと思うところがあった。

もっともそれは些細なことで,会場は大盛り上がりだった。

 

残念なことに,《秋》の第1楽章が終わったところで携帯を鳴らしたバカがいて,演奏者の皆さんが困った顔をすると,会場から笑い声が起きたが,もちろん,笑い事ではない。

演奏中も,いつもより咳の音が多かったように思った。

 

終演後は,CDを買った人対象にサイン会が開かれて,結構な人が並んでいた。

 

全国ツアーなので,首都圏での公演をNHKが録画していてくれないかな(放送するとしたら,「クラシック倶楽部」で一部だけの放送になちゃうだろうが)と,他の公演を調べると,6月26日のすみだトリフォーニーホールでの公演は,同じ曲目だが,チケットの値段が約2倍(S席の場合)なのが分かった。

こういうときだけは,地方でよかったと思ったが,山形テルサの方はもっと安かった。何とも微妙である。

 

 

カラヤンの映像作品7タイトルが初ブルーレイ化!

 カラヤンが1980年代に制作した映像作品(コンサート)7タイトルが,初めてブルーレイ化されてソニーから発売されることになった

 いずれも,テレモンディアル社によるもので,DVDで発売されていたが,この10年以上再発売もされずにいたもの。

 大きなニュースになってよさそうだが,なぜかほとんど話題になっていないレコード芸術6月号の「最新ディスク・ニュース」にひっそりと出ていて,ソニーのホームページでもこっそり出ているだけ。

 非常に嬉しいのだが,1枚5,400円するので,一気に全部揃えるのは厳しいのが残念。もっと安くしてくれれば,全部買うのに。

 

ベルリン・フィル創立100周年記念コンサート(ベートーヴェン交響曲第3番《英雄》)(1982年4月30日収録) SIXC-21

・“万霊節”メモリアル・コンサート1983(R.シュトラウスアルプス交響曲)(1983年11月20日収録) SIXC-22

・ライヴ・イン・大阪1984モーツァルト:ディヴェルティメント第15番,R.シュトラウスドン・ファンレスピーギ:ローマの松)(1984年10月18日収録) SIXC-23

・“万霊節”メモリアル・コンサート1985(ブルックナー交響曲第9番)(1985年11月24日収録) SIXC-24

ベートーヴェン交響曲第9番(1986年9月19-29日) SIXC-25

・ニューイヤー・コンサート1987(1987年1月1日収録) SIXC-26

・ニューイヤー・イヴ(ジルヴェスター)コンサート1988(1988年12月31日収録) SIXC-27

 

 今回ブルーレイ化された7タイトルの特徴は,全てヴィデオ収録されたものだということと,《第九》を除いてテレビ局と共同制作された(おそらく)一発ものの純然たるライヴだということ。

 ヴィデオ収録なのと,大阪でのライヴなど,そもそもの映像の状態があまりよくないものもあるので,ブルーレイ化でどれだけ画質がよくなるかは,見てみないと分からない。

 ベートーヴェン交響曲(第1番-第8番)など,フィルム収録のものの方が効果は大きいはず。その辺がまずは疑問。

 

 それにしても,ソニーはよく今までカラヤンの映像を放置していたものだ。天国の大賀典雄さんは激怒しているに違いない

 

 カラヤンの映像のHD化というと,やはり10年ほど前にウニテル制作のもののいくつかがNHKによって行われ,丁寧な制作過程の紹介とともにBSで放送されたが,それっきりだった。商品化もされず,グラモフォン(ウニテル)はいまだにDVDでの再発を繰り返している。

 全部ではないが再発しているだけマシで,テレモンディアル制作の発売権を持つソニーは全くカラヤンを無視したような状態だった。

 今回のブルーレイ化で,どれだけの画質・音質の向上を見せるのか,ソニーのホームページではその辺のことは書いていない。

 「ソニーの最新技術を結集して,最新映像にも負けないような凄い画質・音質に仕上げました!」くらい言ってほしかった。

 実際に見てみるまで分からないということだ。

 一番期待できるのが,スタジオ制作された第九であろうことは想像できるのだが。

 レコード芸術には,LD用マスターからアップコンバートと書いてあるが,なぜLD用マスターなのかは分からない。DVD用のマスターとは別なのだろうか(そもそも,大阪のライヴはLDでは発売されていなかったはず。ただし,海外盤の発売用の番号はあったらしい)。そして,音源については,b-sharpによるリマスター音源を使用(予定)と書いてあるが,b-sharp自体が何のことか分からない。

 

 まず何を買おうか悩ましいのだが,DVDを買いそびれていたブルックナーと,思い入れの強い《英雄》,アルプス交響曲,ジルヴェスター1988のうちから1枚買って,画質の比較もしたい。

 ブルックナーと大阪のライヴ以外は何度も観ているもので,どれもすぐに欲しい。

 《英雄》は,冒頭から怒濤の勢いで始まり,最後まで一気に聴かせてくれる。カラヤンベートーヴェンの演奏でも屈指のものだと思う。最初の和音で,ティンパニがわずかに早く出るのが格好いい!これがカラヤンベルリン・フィルでなければ単に合わなかっただけと取られるように思うが,それが芸になってしまうのがこのコンビ。この日はモーツァルトの《ジュピター》も演奏されたが,残念ながら商品化されていない。映像が残っているなら,商品化してほしい。

 アルプス交響曲も稀代の名演。ベルリン・フィルカラヤンの凄さを味わうには一番かもしれない。曲に合わせて照明を暗くしたりする演出も面白かった。

 ジルヴェスター・コンサート1988は,公式に残っている演奏会の映像としては最後のもの。後半のデビュー間もないキーシンとのチャイコフスキーは,一般的には名演とは言いづらいかもしれないが,凄い迫力の唯一無二の演奏。当時,BSが見れる友達に録画してもらって,数え切れないほど見た。

 第九は,これだけCDとは別の時期に制作されたもので,貴重。ソリストも,テノール以外はCDと違う。ほかのものはみんなCDと(ほぼ)同時に制作されているので,これだけ単独で作られた理由が気になるのだが,その辺の事情が書かれたものは呼んだことがない。ちなみに,CDにもテレモンディアルのマークが入っているので,一緒に映像も収録されたのではないかと思うのだが,そういう情報は聞かない。

 

 それにしても,クラシックの映像作品のHD化,ブルーレイ化は遅れすぎている。音だけものもが何度もリマスタリングされてSACDハイレゾ音源で再発を繰り返しているのと比べると,異常に思えるくらいだ。

 レコード芸術などでも,あまり採り上げられることがないし。手間がかかる割に売れないのだろうか。どうも,悪循環に陥っている気がする。

 

 ある程度売れそうなカルロス・クライバーの映像などでも,たまにDVDが再発されるだけ(今はほとんどが廃盤のよう。遺族が再発を拒否しているのか?)。1994年の《ばらの騎士のように,HD収録されているのに,4:3の上下に黒帯が出るひどい映像でDVD化されたきりのものもある。元々HD収録されているのだから,ブルーレイ化するに手間はかからないと思うのだが。

 ほかには,例えば,アバドが1991年にアン・デア・ウィーン劇場で上演した《フィガロの結婚などもある。LDで出たきりで,ハイビジョン映像はNHKが随分前に第2幕の一部をBSで放送しただけ。商品化しなくても,NHKで放送してくれればいいのだが。

 

 カラヤンについて言えば,ZDFが放送した映像はもっと残っていないのだろうか。発掘して出してほしい。

 それと,商品化されても高くて買えないので,やはり,デジタル・コンサートホールで見られるようにしてほしい。ウニテルのは見られるのだから。

 アバド時代の映像も,相当の数の演奏会が中継されてた(日本でも,NHKWOWOWBS朝日でハイビジョン収録のものがかなりの数放送された)ので,デジタル・コンサートホールで見られるようにしてほしい。

 

 

ニューイヤー 松田華音ピアノリサイタル(福島テルサ)

 2019年1月12日に福島テルサFTホールで開かれた,松田華音ピアノリサイタルに行った。

 

 500席弱の小さなホールで,館内放送では「本日は満席」とのアナウンス。しかし,実際はガラガラ。東北電力が特別賛助として名前を出しているので,社員の皆さんが,買わされたのに行かなかったのかもしれない。何とも残念だ。

 

1.モーツァルト:ピアノ・ソナタ第8番イ短調K.310

2.シューマン:謝肉祭Op.9

(休憩)

3.ラフマニノフコレルリの主題による変奏曲Op.42

4.チャイコフスキー:18の小品Op.72より

(2.子守歌 4.性格的舞曲 5.瞑想曲 13.田舎のこだま 14.悲歌 18.踊りの情景)

(アンコール)プロコフィエフ:「ロメオとジュリエット」からの10の小品Op.75~僧ローレンス

 

 松田さんは黄色の鮮やかなドレスで登場。

 最初の音を聴いてあれっと思った。音が悪い。

 元々クラシック音楽用のホールではなく,天井などを見るとここでコンサートをやるのはどうかと思うほど。ピアノはスタインウェイだが,どのくらいのものなのか分からない。聴いていて気の毒になってきた。

 それでも慣れてきたのか,尻上がりによくなったと思う。

 曲との相性も,後半のロシアものの方がいいように思った。

 ラフマニノフチャイコフスキーも比較的珍しい曲。それでもまだラフマニノフは録音もあるし,知られている。主題はコレルリなのであるが,変奏に入るとラフマニノフでしかない音楽になり,十分聴き応えはある。

 チャイコフスキーは最晩年のかなりマイナーな曲。CDも全曲はプレトニョフの2種類くらいしかない。しかし,チャイコフスキーらしいメロディアスで素敵な曲が続く。初めて聴いたが,好きになった。こういう曲を教えてもらえて感謝。

 早速CDを買おうと思ったら,プレトニョフの旧盤は既に廃盤のよう。新盤も国内盤は廃盤。輸入盤しかなかった(グラモフォン 477 5378)。ナクソスのHPを見てもプレトニョフの新盤しか全曲盤は出てないので,本当にマイナーなのだと分かる。そのプレトニョフの新盤も,拍手入りのライヴ。

 松田さん,是非全曲録音してください。すぐ買います。

 アンコールは1曲。何かしゃべったりということもなく,あっさり終わった感じ。

 終演後はCD購入者へのサイン会。

 曲が終わるごとに下品に叫ぶブラボーオヤジが1人いて興ざめだった。迷惑だと思わないのか。思わないから叫ぶんだろうが。演奏者も,ああいうのは嬉しいんだろうか。

 

 

チョン・キョンファのフォーレ

 12月26日のBSプレミアム「クラシック倶楽部」で,チョン・キョンファのリサイタルが放送された(2018年6月5日 東京オペラシティ コンサートホール)。

 ピアノは,ケヴィン・ケナー

 

 曲は,フォーレのヴァイオリン・ソナタ第1番イ長調作品13,ブラームスのヴァイオリン・ソナタ第3番ニ短調作品108,ドビュッシーの美しい夕暮れの3曲。

 コンサートの事前の告知を見ると,ブラームスのヴァイオリン・ソナタ第1番,フォーレのヴァイオリン・ソナタ第1番,バッハのシャコンヌ,フランクのヴァイオリン・ソナタとなっているので,曲が変更になったよう。

 

 フォーレの第1番は大好きな曲なので,早速聴いて(見て)みた。

 舞台に出てきた様子を見ると,ずいぶんとおばあちゃんになっちゃったな,というのが第一印象。

 曲が始まると,何とも不安定。酔っ払いのよう。曲を崩しすぎていて,リズムがかなり怪しい。音もだんだん汚くなっていくし。

 演奏中にテロップで「不安定なリズムが随所に現れる」という解説が出てきたのには笑ってしまった。曲のことを言っているのか,演奏のことを言っているのか。

 第1楽章の後に拍手が起きたので,会場の方たちにはよく伝わる演奏だったのだろうが,テレビで見る限りでは,かなり厳しかった。

 大好きな曲なので,なおさら。

 

 ちなみに,お勧めのCDは,ギル・シャハムと江口玲の演奏(デンオン(アルテミス)COCQ-83711 国内盤は廃盤かも)。

 抜群に音が美しく,変な癖がなくて,最高に幸せになれる1枚。

 

 

ライヴ録音の拍手

 ユジャ・ワン久々のソロ・アルバム「ベルリン・リサイタル」が11月28日に発売された(グラモフォン UCCG-1818)。

 ベルリン・リサイタルの名前のとおり,ベルリンのフィルハーモニー室内楽ホールでのライヴ録音で,2018年6月に収録されたもの。曲は,ラフマニノフスクリャービンリゲティプロコフィエフと,得意とする作曲家の曲を集めていて,演奏はもちろん圧倒的。

 この手のライヴ録音なので,1曲ごとに拍手が入るのかと思ったら,拍手なしで,しかも会場ノイズはほとんどなし。言われなければライヴとは分からないくらい。このまま拍手なしで終わるのだと思ったら,最後のプロコフィエフの第8ソナタの後にだけ,突然,取って付けたように拍手が。

 はっきり言って,こういうのは非常に気持ち悪い。

 最後の曲だけ拍手をカットしないという神経が分からない。

 ほかの曲はカットしているのだから,カットできなかったというわけではないだろう。

 無神経だと思う。

 CDになる以上,できる限り拍手はカットしてほしい派なので,ほんと嫌なのである。

 最後に騙された感じがする。

 

 ドイツ・グラモフォンはときどきこういうことをやるようで,以前も似たようなおかしなことをやったCDがあった。

 10年以上前の録音だが,ポリーニウィーン・フィルを弾き振りしたモーツァルトのピアノ協奏曲で,17番と21番を入れた2005年録音の(UCCG-50065)と,12番と24番を入れた2007年の録音(UCCG-6220)。

 どちらも,1曲目は拍手なしで,2曲目の終わりにだけ拍手が入っている。

 不自然で,全く意味が分からない。

 大事なものを傷物にされた感じがして,聴く気も失せてしまう。

 

 そもそも,ライヴ録音といいながら,まるでスタジオ録音のような,いわば「ライヴもどき」のものをつくり出したのは,ドイツ・グラモフォンではないかと思う。

 おそらく,バーンスタインベートーヴェン交響曲全集あたりからだろう。

 しばらくは,バーンスタインの録音(ブラームス交響曲全集とか)くらいだったが,80年代後半くらいからはかなり一般化してきて,アバドベートーヴェン交響曲全集なども同様の手法で録音されていた。

 もっとも,アバドの頃はまだ珍しい感じがあったようで,当時のレコード芸術でも,ライヴなのに拍手もノイズもほとんどない,と月評であえて書かれていたように思う。そして,スタジオ録音のようなクオリティとライヴ勢いが同居する録音として評価されていたはずだ。

 

 その後,他のレコード会社でも,ゲネプロを含めて録音し,演奏会後に一部取り直しもする,ライヴもどきの録音が増えてきた。レコード会社がお金をかけられなくなったことによるものだと思う。

 それでも,スタンスは各社様々で,例えばデッカのショルティのものなどは,最後に拍手を入れることが多かった。

 その後は,CDをつくるのを前提にした場合は拍手なし,一発ものは拍手あり,というのが多くなってきたように思う。

 それでも,今回のユジャ・ワンのCDのように,奇妙なものも時々出てくる。

 ドイツ・グラモフォンとして,その辺のスタンスは一貫していないようだ。

 

 

 個々のCDで考えると,ライヴ録音で拍手を入れる,入れないは様々で,ポリシーをもって制作してくれていれば,それはそれでいいのだろうが,非常に困るのは,全集ものの場合である。

 

 まず,ライモン・ラトル指揮のマーラー交響曲を見てみたい。

 1986年の第2番から始まった録音は,当時首席指揮者をしていたバーミンガム交響楽団とのもので,決して一流オーケストラとは言えない手兵とともに,おそらくじっくり時間をかけて丁寧につくったのだと思わせる,非常に精緻でありながら若々しい勢いのある優れた演奏だった。

 それが,途中,第7番だけ,突然拍手入りのライヴ録音になる。

 拍手が入るのも興ざめだったが,はっきり言って一流とはいえないバーミンガム交響楽団の演奏は,ほかの曲と比べてもかなり荒くて残念な演奏になってしまっていたと思う。

 その後は再びスタジオ録音に戻るが,第9番はウィーン・フィルとのライヴ録音(拍手なし)になり,そしてラトルがベルリン・フィルに行ってしまったせいで事実上中断してしまう。

 そして,ベルリン・フィルと第10番(クック版)と第5番をライヴ録音(拍手なし)し,最後はバーミンガムに戻って第8番をライヴ録音(拍手なし)して完結した。

 その後,第2番と第9番をベルリン・フィルと再録音(拍手なしのライヴ)しているし,もっと前にはボーンマス交響楽団と第10番(クック版)を録音,さらに,つい最近にはバイエルン放送交響楽団大地の歌を録音しているが,これらは全集とは別に考えるべきだろう。

 つまり,第7番だけが拍手ありのライヴで,しかも演奏的にも問題あり,ということになっている。もっと言うと,第5番と第9番もイマイチで,ぜひバーミンガムでスタジオ録音してほしかった。

 何というか,宝箱の中に,1つだけ傷物が混じった感じで,非常に気持ち悪いのだ。

 

 アバドマーラーも似たような結果になっているが,こっちはもっと複雑だ。

 

 ラトルとはまた違うが,インバルと東京都交響楽団によるマーラー交響曲全集(2回目のもの。と単純には言えないのが難しいのだが)もそう。

 第5番だけ,最後に拍手が入っているのだ。

 チクルスで番号順に演奏され,エクストンがSACDで順次発売した全集だが,なぜか第5番だけ最後に拍手が入っているのである。解説書にもその辺の事情は何も書かれていない。確かに,この演奏は非常に優れた演奏で,最後も熱狂的なので,拍手をカットしたくない気持ちも分からないではない。しかし,それはほかの曲も同じ。静かに終わる曲以外は拍手をカットすべきでなかっただろう。

 こういう統一感のなさは,非常に気持ち悪く,やはり,一つだけ傷物が混じってしまったような感じがしてしまう。やめてほしかった。

 

 

 最近はスタジオ録音も復活しつつあるように思うが,やはり今は器楽曲・室内楽曲・歌曲など小編成のものを除くと,ライヴ録音が主流である。レコード会社には,拍手を残すのかカットするのか,しっかりしたポリシーをもって制作してほしい。

 CDの聴き手としては,歴史的演奏会と言えるようなものでない限り,極力拍手はカットしてほしい。