カラヤンが1980年代に制作した映像作品(コンサート)7タイトルが,初めてブルーレイ化されてソニーから発売されることになった。
いずれも,テレモンディアル社によるもので,DVDで発売されていたが,この10年以上再発売もされずにいたもの。
大きなニュースになってよさそうだが,なぜかほとんど話題になっていない。レコード芸術6月号の「最新ディスク・ニュース」にひっそりと出ていて,ソニーのホームページでもこっそり出ているだけ。
非常に嬉しいのだが,1枚5,400円するので,一気に全部揃えるのは厳しいのが残念。もっと安くしてくれれば,全部買うのに。
・ベルリン・フィル創立100周年記念コンサート(ベートーヴェン:交響曲第3番《英雄》)(1982年4月30日収録) SIXC-21
・“万霊節”メモリアル・コンサート1983(R.シュトラウス:アルプス交響曲)(1983年11月20日収録) SIXC-22
・ライヴ・イン・大阪1984(モーツァルト:ディヴェルティメント第15番,R.シュトラウス:ドン・ファン,レスピーギ:ローマの松)(1984年10月18日収録) SIXC-23
・“万霊節”メモリアル・コンサート1985(ブルックナー:交響曲第9番)(1985年11月24日収録) SIXC-24
・ベートーヴェン:交響曲第9番(1986年9月19-29日) SIXC-25
・ニューイヤー・コンサート1987(1987年1月1日収録) SIXC-26
・ニューイヤー・イヴ(ジルヴェスター)コンサート1988(1988年12月31日収録) SIXC-27
今回ブルーレイ化された7タイトルの特徴は,全てヴィデオ収録されたものだということと,《第九》を除いてテレビ局と共同制作された(おそらく)一発ものの純然たるライヴだということ。
ヴィデオ収録なのと,大阪でのライヴなど,そもそもの映像の状態があまりよくないものもあるので,ブルーレイ化でどれだけ画質がよくなるかは,見てみないと分からない。
ベートーヴェンの交響曲(第1番-第8番)など,フィルム収録のものの方が効果は大きいはず。その辺がまずは疑問。
それにしても,ソニーはよく今までカラヤンの映像を放置していたものだ。天国の大賀典雄さんは激怒しているに違いない。
カラヤンの映像のHD化というと,やはり10年ほど前にウニテル制作のもののいくつかがNHKによって行われ,丁寧な制作過程の紹介とともにBSで放送されたが,それっきりだった。商品化もされず,グラモフォン(ウニテル)はいまだにDVDでの再発を繰り返している。
全部ではないが再発しているだけマシで,テレモンディアル制作の発売権を持つソニーは全くカラヤンを無視したような状態だった。
今回のブルーレイ化で,どれだけの画質・音質の向上を見せるのか,ソニーのホームページではその辺のことは書いていない。
「ソニーの最新技術を結集して,最新映像にも負けないような凄い画質・音質に仕上げました!」くらい言ってほしかった。
実際に見てみるまで分からないということだ。
一番期待できるのが,スタジオ制作された第九であろうことは想像できるのだが。
レコード芸術には,LD用マスターからアップコンバートと書いてあるが,なぜLD用マスターなのかは分からない。DVD用のマスターとは別なのだろうか(そもそも,大阪のライヴはLDでは発売されていなかったはず。ただし,海外盤の発売用の番号はあったらしい)。そして,音源については,b-sharpによるリマスター音源を使用(予定)と書いてあるが,b-sharp自体が何のことか分からない。
まず何を買おうか悩ましいのだが,DVDを買いそびれていたブルックナーと,思い入れの強い《英雄》,アルプス交響曲,ジルヴェスター1988のうちから1枚買って,画質の比較もしたい。
ブルックナーと大阪のライヴ以外は何度も観ているもので,どれもすぐに欲しい。
《英雄》は,冒頭から怒濤の勢いで始まり,最後まで一気に聴かせてくれる。カラヤンのベートーヴェンの演奏でも屈指のものだと思う。最初の和音で,ティンパニがわずかに早く出るのが格好いい!これがカラヤンとベルリン・フィルでなければ単に合わなかっただけと取られるように思うが,それが芸になってしまうのがこのコンビ。この日はモーツァルトの《ジュピター》も演奏されたが,残念ながら商品化されていない。映像が残っているなら,商品化してほしい。
アルプス交響曲も稀代の名演。ベルリン・フィルとカラヤンの凄さを味わうには一番かもしれない。曲に合わせて照明を暗くしたりする演出も面白かった。
ジルヴェスター・コンサート1988は,公式に残っている演奏会の映像としては最後のもの。後半のデビュー間もないキーシンとのチャイコフスキーは,一般的には名演とは言いづらいかもしれないが,凄い迫力の唯一無二の演奏。当時,BSが見れる友達に録画してもらって,数え切れないほど見た。
第九は,これだけCDとは別の時期に制作されたもので,貴重。ソリストも,テノール以外はCDと違う。ほかのものはみんなCDと(ほぼ)同時に制作されているので,これだけ単独で作られた理由が気になるのだが,その辺の事情が書かれたものは呼んだことがない。ちなみに,CDにもテレモンディアルのマークが入っているので,一緒に映像も収録されたのではないかと思うのだが,そういう情報は聞かない。
それにしても,クラシックの映像作品のHD化,ブルーレイ化は遅れすぎている。音だけものもが何度もリマスタリングされてSACDやハイレゾ音源で再発を繰り返しているのと比べると,異常に思えるくらいだ。
レコード芸術などでも,あまり採り上げられることがないし。手間がかかる割に売れないのだろうか。どうも,悪循環に陥っている気がする。
ある程度売れそうなカルロス・クライバーの映像などでも,たまにDVDが再発されるだけ(今はほとんどが廃盤のよう。遺族が再発を拒否しているのか?)。1994年の《ばらの騎士》のように,HD収録されているのに,4:3の上下に黒帯が出るひどい映像でDVD化されたきりのものもある。元々HD収録されているのだから,ブルーレイ化するに手間はかからないと思うのだが。
ほかには,例えば,アバドが1991年にアン・デア・ウィーン劇場で上演した《フィガロの結婚》などもある。LDで出たきりで,ハイビジョン映像はNHKが随分前に第2幕の一部をBSで放送しただけ。商品化しなくても,NHKで放送してくれればいいのだが。
カラヤンについて言えば,ZDFが放送した映像はもっと残っていないのだろうか。発掘して出してほしい。
それと,商品化されても高くて買えないので,やはり,デジタル・コンサートホールで見られるようにしてほしい。ウニテルのは見られるのだから。
アバド時代の映像も,相当の数の演奏会が中継されてた(日本でも,NHK,WOWOW,BS朝日でハイビジョン収録のものがかなりの数放送された)ので,デジタル・コンサートホールで見られるようにしてほしい。