「レコード芸術」休刊

 「レコード芸術」が2023年7月号(6月20日発売)で休刊するという。

 考えてもいないことだった。

 部数が減っているらしいことは感じていた。値上がりしても逆にページは減り,広告も少なくなっていた。何とか頑張ってほしいと思い,このブログでも厳しいことを言ってきた。新たな読者の獲得が難しいような内容になってきているのではと危惧していた。レコ芸だけではないが,前置きや言い訳のような文章を長々と書かないと始まらない文章が多くなり,読んでいてすっきりしない記事が多くなってきていた。その一方で,初心者が入ってきやすいコーナーが少なくなってきていた。

 2023年4月号の特集「神盤再聴」は,蛸壷化してきて敷居が高くなったレコ芸が原点回帰し,幅広い読者に愛される雑誌を目指して変わろうともがいている姿のようにも見え,肯定的に思っていた(内容は,筆者によって玉石混交だったが)。

 そんな中での休刊発表だったので,余計ショックだ。

 

 これまで,クラシック音楽を聴くようになってから約35年間,1号も休むことなく購読してきた。クラシック音楽に関する知識の大部分はレコ芸からのものと言っていい。そういう読者は多いはずだ。だからこそ,より初心者にも開かれた雑誌になり,読者を増やしてほしいと願っていた。

 

 早速,レコ芸に寄稿している評論家や音楽家の方々の反応が報じられている。朝日新聞では,長木誠司さんが「『レコ芸』は、レコードを中心に発展してきた20世紀の音楽文化の根っこを支え続けた雑誌。もしなくなれば、日本のクラシック音楽文化の重要な核のひとつが確実に壊れる。影響は深刻」とのコメントを,読売新聞では,沼野雄司さんが「クラシック音楽を愛好する人にとって最も信頼し得る媒体であり、70年以上にわたって我が国の音楽文化を支えてきた存在」であって「この雑誌が消滅したら、2023年は日本の音楽文化の核のひとつが崩壊した年として、後世に記憶されるだろう」と,オンライン署名を始めたことを紹介している。

 全くそのとおりだ。

 ネットで様々な情報が溢れているとはいえ,最も信頼できる媒体として存在し続けているのがレコ芸であることは,言うまでもない。これがなくなるということは,日本からクラシック音楽を支える重大な柱がなくなるということにほかならない。

 

 沼野雄司氏,舩木篤也氏,矢澤孝樹氏が名を連ねて始めたオンライン署名は,これを書いている時点で1,300人を超えたところだ。

 そして,レコ芸の主要なライターでもある相場ひろ氏,飯田有抄氏がコメントを寄せている。彼等の意見には完全に同意する。

 現在連載中のコーナーの中では,舩木篤也氏の「コントラプンクテ」と沼野雄司氏の「トーキョー・シンコペーション」は特に優れたものだ。長木誠司氏の「ディスク遊歩人」も大好きだ。これらを読んでは,まだまだ可能性はあると思っていた。

 読者の高齢化も著しいのだろう。投書箱やプレゼント当選者,リーダーズ・チョイスを見ると,それがよく分かる。年配の方,同じ方ばかりだ。

 何とか若い新規の読者を獲得しないといけない。このところ,ずっとそう思っていた。

 何とか休刊を撤回し,再出発してほしい。

 レコ芸なくして音楽之友社は存在しうるのか。