映画「機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島」

 映画「機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島」を見た。

 元になっている機動戦士ガンダムTHE ORIGINは,「前夜 赤い彗星」をアニメで見ただけで,漫画は一切読んでいない。

 「赤い彗星」を見て感じたとおりの違和感だらけの作品だった。

 

 設定がいろいろ変わるのはしょうがないとしても,富野由悠季監督の世界観とはあらゆる面で違いすぎる,というのが違和感の一番の理由だと思う。

 もし,同じストーリーで富野監督が制作していたら,全く違った作品になったのは間違いない。キャラクター,メカ(の動かし方),そして世界観,全てが違いすぎる。

 初代ガンダムや最新作のGのレコンギスタと見比べれば,すぐに感じられると思う。

 

 まず,キャラクターだが,セリフから動きから,いちいち大げさで,わざとらしい。富野ガンダムと性格を変えている,といったレベルではない。全員が同じように大げさでわざとらしいのだ。こういう演出は,富野監督は嫌うと思う。これは,ガンダムの世界ではない。

 

 メカの動きも違和感だらけだ。全体の造形が,富野ガンダム(大河原ガンダムと言うべきか)と随分違う。まるで違うアニメを見ているかのようだ。そして,最近のガンプラでも見られる,例えばガンダムの方に描かれている「EFSF」などの文字やマーク。富野監督は,こういうのをあえて排除しているように思うのだが,これだとやはり別物に見える。まるで,ガンプラバトルのようだ。そして何より,動きがおかしい。いかにもCGですよ,といった感じの動きは,富野監督は絶対やらない動かし方だ。戦艦の動きもそう。すごく安っぽく見える。

 

 ストーリー面では,ドアンがなぜ子供達を連れてあの島に住んでいるのかが,イマイチよく分からなかった。テレビ版での,ごく短い説明の方が,はるかに説得力がある。というか,想像力で勝手に補わされてしまうのだ。しかし,映画では,周辺の説明が多すぎるので,かえって想像力が働かなくなってしまい,結局,何だかよく分からないで終わってしまうのだ。

 その一方で,ブライトと連邦軍幹部とのやり取りなど,本筋とあまり関係のないどうでもいいエピソードが長々とあり,見る気をそがれてしまう。

 

 6月2日のNHKニュースウォッチ9でこの映画が取り上げられていて,「唯一変えなかったシーン」として,終盤でのアムロが「あなたの体に染みついている戦争のにおいが戦いを呼び寄せるんじゃないでしょうか。それを消させてください」と言ってドアンのザクを海に投げ捨てるシーンを紹介しているのだが,テレビ版ではすごく説得力があるのに対して,映画ではアムロのセリフが非常に唐突に感じられた。

 思うに,テレビ版では,ごく短い放送時間なのに,アムロとドアンの間に濃密なやりとりがあって,信頼関係が築かれていったことが示唆され,アムロがドアンのことをよく理解した上であのセリフと行動が出てきたように思わせられるような展開になっているのに対して,映画では,尺ははるかに長いのに,アムロとドアンの関係が今一つ希薄で,そこまでアムロはドアンのことを理解しているのか分からないうちに,あのシーンが突然やってくるように見えてしまうのだ。

 それはおそらく,マルコスというテレビ版にないキャラクターに,アムロとの絡みのほとんどを担わせてしまったことと,テレビ版ではあの島にいなかったカイ,ハヤト,スレッガー,セイラが現れたりしたことと関係あると思う。

 いろいろ説明しすぎて,かえって見る者の想像力をそぎ,重要な場面での印象を弱めてしまうという,最近のアニメの弱点(問題点)を露呈した作品になったように思う。

 

 あまり書きたくないが,声優の問題も大きい。

 既に亡くなってしまった方もおり,やむを得ないのだが,テレビ版と同じなのはアムロ,シャア,カイくらい。

 それで,アムロ古谷徹さんなのだが,声はいまだに若々しく,アムロ以外の何物でもないのはさすが。しかし,ろれつはだんだん怪しくなってきていて,大げさな時代劇みたいな物言いになっているのは残念だ。

 もう一人気になったのは,ブライト。かなり鈴置さんを意識しているようで,声を無理に作りすぎ,不自然さが際立ってしまっている。

 ほかの方たちは,コメントする気にもならない。声優さんの変更というのはものすごく大きなことなのだ。それが,本来の声優さんがアムロとシャア(登場は一瞬だけだが)だけとは・・・。リメイクする意味があるのか考えてしまう。

 

 最後にはっきり言いたい。ファーストガンダム作画監督を務めた安彦良和さんの作品であり,「THE ORIGIN」を名乗るこのシリーズだが,富野ガンダムとは世界観から何から全く別物だ。ファーストガンダムをきちんと見ていない方は,これが本物だとは決して思わないでほしい。

 

 

 さて,7月と8月には,富野監督のGレコのⅣとⅤが続けて上映される。

 結末は,テレビ版とは随分変わるという噂もあるが,どうなるか,楽しみであると同時に不安も大きい。

 またZガンダムの映画版のように「やっちまう」ことがないよう祈っている。