バレンボイムのブルックナー

 ダニエル・バレンボイム指揮シュターツカペレ・ベルリンブルックナー交響曲全集の一部(第4番,第5番,第8番,第9番)を聴いてみた。

 グラモフォンの最新盤(4796985)だが,国内盤は未発売。売れないと見られたのだろう。レコード芸術では5月号の「View points」で採り上げられており,その前にも海外盤REVIEWでトップページで採り上げられている。レコード芸術は2015年6月号でバレンボイムを特集していて,日本で人気がないことを嘆くような内容だったので,編集部にバレンボイムの大ファンがいるのだろう。

 確かに,指揮者バレンボイムはよく分からない。今回聴いてみて一層謎だなと思った。ピアニストとしては評価している。特に,モーツァルトベートーヴェンは絶品だと思う。しかし,後期ロマン派になると,テクニックがかなり怪しくなるが。

 

 ブルックナーだが,ベルリン・フィル盤(テルデック)は全集を買った。ベルリン・フィルだから買ったのだが,さっぱりピンと来なくて,1度聴いたきり,ほとんど聴いていない。

 新盤はどうか。レコ芸では,バレンボイムブルックナーが日本で人気がない理由の一つとして,テンポを揺らすことを挙げている。確かに,ヴァントなどのブルックナーを信奉する人たちからはそうかもしれないが,それだけではないように思った。

 ブルックナーが苦手な人(自分もそうだ)は,ヴァントみたいなブルックナーが大嫌いだと思う。朝比奈はまだ聴ける。男の色気みたいなのがあるから。ヴァントはダメ。色気のかけらもない。で,聴くなら,ロマンティックに自由に演奏する方が聴ける。そういう意味では,ブルックナー嫌いに受け入れられる余地がありそうだ。

 しかし,バレンボイムブルックナー(実は,ブルックナーに限らないのだが)を聴くと,どうも違う。テンポが揺れるのはいい。でも,その揺らし方が問題なのだ。

 揺らし方が不自然なのだ。何でここで速くするの?みたいなのが続くのである。生理的に合わなくて,気分が悪くなるのだ。こちらの感覚とまるで正反対なような感じ。曲想に合ってないと思うのだが。

 テンポだけでない。金管を朗々と鳴らしてほしいところで抑えてしまったりすることも多い。欲求不満になる。クライマックスの捉え方がどうも違うように思う。往年の巨匠と言われるような人たちなら決して逃さない山場で,音量を抑えてしまうのだ。

 また,シュターツカペレ・ベルリンだと目立たないのだが,ベルリン・フィルとの以前の録音などを聴くと気になるのが,響きが雑然として整えられていないこと。旋律を弾いているパートに対して,内声部の弦楽器の扱いが雑で音が大きい(コリン・デイヴィスなんかもそうだった)ので,音のボディーがしっかりしていない割にうるさいのだ。

 あの指揮ぶりもヴィジュアル的によろしくない。アシュケナージなんかもそうなので,ピアニストに特有なのかと思うのだが,肘が曲がらなくて動きが硬い。見なければいいだけだが,見ちゃうと辛い。

 

 今回のブルックナー,聴く前は期待したのだが,今回も(バレンボイムブルックナーも)好きにはなれなかった。大いに時間を無駄にしてしまった。