悪いのはハンコではない

 河野行革大臣が行政手続にハンコを押すのをやめさせろと騒いで話題になっている。

 意味のないハンコはやめたほうがいいに決まっているのだが,この人,ハンコを押すのをやめてそれで済むと思っているのならただのアホだ。

 と思っていたら,次は書面とファックスだと言い出した。さすがにただのアホではなかったようだ。一番の問題は書類だからだ。ファックスを言い出したのには笑うしかないが。やはり半分はアホだ。

 

 書類に押印しなければならないこと自体で困ることは,実はさほど多くないと思う。実印を求められることは稀なので,三文判認印で足りるのだから,「家に忘れてきちゃった」というのでなければ,本当に困ることはそれほど多くない。

 

 問題は書類で,申請にしてもテレワークをやるにしても,紙がないとできないから困っているのだ。大臣レベルだとレクの資料はワンペーパーだったりするだろうから,PDFの資料でも電子決裁でも全然問題ないだろうが,大臣に上がることが決してないような書類が書類でないと成り立たないから困っているのだ。下っ端のやっていることの分からないお坊ちゃま大臣らしい発想だ。

 申請書の表紙だけなら,電子申請だろうが電子決裁だろうが,ハンコがあろうがなかろうが大したことはないのであって,それに添付する膨大な書類(が必要な場合)は,紙じゃないとどうしようもないことが多いことが問題なのだ。

 全部PDFにしていたら,それだけでものすごい時間がかかる(手書きの書類だってあるのだから)。見るのもパソコンの画面だけで見るのは非常に効率が悪い。でかいディスプレイを全職員に配るくらいじゃないと仕事にならないだろう。ノートパソコンでは無理だ。大臣の広い机なら置けるかもしれないが,末端の職員の狭い机には置けないだろう。

 

 稟議書等に決裁をもらうのだって,実はハンコを押すのが一番速くて便利なのだ。今だって,別にサインでだめという職場はほとんどないんじゃないかと思う。ハンコだって,シャチハタではダメなんていう職場はまずないはずだ。シャチハタじゃない認印だって,印鑑ホルダーを使えばシャチハタと同じように早く押印できる。

 「見ましたよ」というのが分かるようにするためには,サインするよりも,ハンコを押す方がはるかに速いのだ。

 

 もう一つ,契約書などの押印をどうするかという問題もある。書類の真正性をどうやって担保できるか,担保する方法があれば,ハンコはいらないわけで,担保する方法がないからハンコを押しているだけだ。

 

 河野大臣には,ただやめろではなく,何のために押印が必要だったのかを考えた上で,書類(というか証拠)の真正性が担保できる方法をきちんと示し,それを広く国民に行き渡らせてもらいたい。言い出しっぺとして最後まで責任をもってやってほしい。また,人気取りのために,性急に事を進めようとして,かえって国民生活を混乱させるようなことは絶対にやめてもらいたい。ま,期待はしていないが。