ポリーニのベートーヴェン ピアノ・ソナタ集

 マウリツィオ・ポリーニベートーヴェンのピアノ・ソナタ第30番,第31番,第32番を再録音した(グラモフォン UCCG-40096)。特に予告なく,いきなり発売の告知が出たので,驚いた人は多かっただろう。

 ポリーニといえば,1975年録音の第30番と第31番,1977年の第32番の旧録音は非常に有名でどれもがこれまで最高の名盤として紹介されてきたもの。

 なので,最近のポリーニの演奏からは,旧盤を超えるような演奏が聴けるのかどうか

非常に不安であったが,とりあえずすぐ予約して購入した。

 既に何度も聴き,旧盤とも聴き比べたが,今日,レコード芸術4月号に月評が載ったのも読んだので,感想を書いておくことにした。

 というのも,何とも評価が難しい感じがしたので,レコ芸でどういう評価がされるのかも非常に興味があったからだ。結果は「特選」。濱田,那須田の両氏とも絶賛と言っていいのだろう。

 

 新盤は,最近のポリーニのCDと共通していて,演奏自体は言わば「一筆書き」といった趣き。テンポが速く,細部にこだわるというよりは,全体の流れの良さを重視したような演奏。

 そして,旧盤との印象の違いを際立たせるのは録音で,残響が多く,ぼやっとしている。

 これまでと同じ,ミュンヘンのヘルクレスザールでの録音なのに,全く違う会場としか思えないような録り方。演奏の傷を隠すためじゃないのかと勘ぐっているのだが,どうなのだろう。この前に出たショパンの演奏もそうだった。

 

 旧盤と聴き比べて,やはり旧盤の方がよいと思った。そんなに聴き込んだCDというわけでもないが,旧盤は素晴らしい。圧倒的である。やはり,旧盤と比較すると新盤はかなり落ちると思う。録音も足を引っ張っているとしか思えない。

 だからといって,そんなに悪い演奏というわけでもないのも事実。これだけ聴いたら,かなりいい演奏だと思うのでは,とも思った。

 というわけで,ほかの演奏家の演奏(特に,第30番と第31番)を聴いてみた。

 いろいろ聴いたが,ポリーニが断然いい,というのが改めてよく分かったのと,新盤も非常に素晴らしい演奏だということ。

 これでもう少し残響が少なかったら,と思わずにはいられない。ポリーニ自身の指示なのか,グラモフォンのスタッフの考えなのか,気になるところだ。

 

 今回は,国内盤はMQA仕様で,MQA-CDを買ったのは初めてで,どうやったらハイレゾで聴けるのかが解説書添付の説明文を読んでもさっぱり分からないのには困った。

 FLACリッピングして対応機器で再生しようとすれば,「.mqa.flac」と拡張子を変えればいいらしいと分かったが,それでは不十分な場合があり,「MQATagRestorer」というソフトを使ってMQAファイルを作成した方がいいようだ。

 しかし,残念ながらまだ対応機器を持っていないので,楽しみはこれからなのである。

 

 

 ポリーニというと,1980年代後半~1990年代のいずれかの時期に腕を故障し,演奏に変化が生じたというのが大方の見方であり,実際そうだと思うが,その本当の時期や故障の原因・状況は謎に包まれている。

 特に時期については,人によって言うことが違うので,よく分からない。

 ライヴ録音が増えた(特に協奏曲)ことや,録音の感じが変わった(前述のとおり,徐々にかもしれないが,残響が多くなり,最近のはひどい)ことも原因だと思う。

 

 ポリーニが自分にとって最も重要なピアニストであることは変わりない。

 せっかくなので,特に好きなディスクを挙げておく(ABC順)。

バルトーク:ピアノ協奏曲第1番,第2番

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第15番《田園》

・ 同 第17番《テンペスト》(旧盤)

・ 同 第21番《ワルトシュタイン》(旧盤)

・ 同 第22番

・ 同 第25番《かっこう》

・ 同 第26番《告別》

・ 同 第28番

・ 同 第29番《ハンマークラヴィーア》

・ 同 第30番(旧盤)

・ 同 第31番(旧盤)

・ 同 第32番(旧盤)

ショパン:ピアノ・ソナタ第2番《葬送》(旧盤)

・同:舟歌(旧盤)

・同:子守歌(旧盤)

ドビュッシー前奏曲集第2巻

・リスト:ピアノ・ソナタ

モーツァルト:ピアノ協奏曲第17番

プロコフィエフ:ピアノ・ソナタ第7番《戦争ソナタ

シューベルト:ピアノ・ソナタ第20番

・ 同 第21番

 

曲自体が好きなものを挙げているので,その曲でのベスト演奏,ということで言うと,ほかにもあるかもしれない。