ドイツ・グラモフォンのジャケット

 今年に入ったくらいから,ドイツ・グラモフォンのジャケットデザインが昔のものに戻ったようだ。全部ではないが。

 すなわち,例の上4分の1くらいに黄色い額縁のような曲名と演奏者名を大きく書いたものを出すスタイルのことである。

 グラモフォンといえば,廉価版や組物などを除いて基本的にはこのデザインだったので,すぐグラモフォンと分かったし,いかにも老舗っぽくてよかった。しかも,演奏者の写真を単に載せるのでなく,きれいな絵画などを使って,見た目がとてもよかったのだ。

 ところが,21世紀に入って数年経ったくらいからだと思うが,伝統のデザインをやめて,演奏家の写真にロゴマークを小さく入れるだけというスタイルに変わってしまった。

 もっとも,再発物はむしろオリジナルのデザインに戻す傾向が強くなったので,昔のデザインもよく見かけはするのだが,新譜は基本的に新しいつまらないデザインで,何とも残念だった。

 

 それが,今年あたりから元に戻ってきたのである。大歓迎だ。しかも,演奏家の写真ばかりでない凝ったデザインも目にするようになってきた。

 

 ジャケットデザインの変更と呼応するかのように,録音の傾向も変わったなと思っていたのだが,こちらはまだ相変わらずのようだ。

 このところ,特にピアノ曲で顕著なのだが,甘ったるくムード音楽のような録音になってしまっている。

 例えば,出たばかりのポリーニショパンで比べると,はっきり分かる。

 最近出たのは,後期作品集ということで,国内盤は今年の2月1日に発売された(UCCG-1753)。2015年から2016年にかけて,ミュンヘンのヘルクレスザールでの録音。ポリーニのいつもの録音会場である。バランスエンジニアはベテランのクラウス・ヒーマン。これに舟歌Op.60が入っているが,この曲は以前にも録音していた。

 舟歌の旧盤(UCCG-6231)の方は,1990年に同じヘルクレスザールで録音されており,バランスエンジニアはギュンター・ヘルマンスだった。

 この2つを聴き比べてみると,とても同じホールで同じ人が弾いたとは思えないほど音の傾向が違う。旧盤は,カチっとした固い音で,ポリーニだとすぐ分かる音になっている。一方,新盤は,残響が多く,音は残響に埋もれ,最近のグラモフォンのムード音楽ぽい音になっている。もやもやしていて,個人的には好きではない。

 演奏自体は,好きなのは旧盤の方だが,新盤も一筆書きのような演奏で(テンポも新盤の方が速い),悪くはない。

 ショパンは単発で出ているものだが,ようやく完成したベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集は,数十年かかってしまったということもあるが,初期のものと後半のものでは録音の傾向が違いすぎて,違和感でいっぱいであった。

 この音の傾向は,これからどうなっていくのだろうか。オーケストラも含めて,もう少ししっかりした録り方をしてほしいなと思う。もっとも,この傾向はグラモフォンだけではないようにも思うのだが。