レコード芸術2016年12月号

 今月号の特集は「交響曲名盤100 21世紀のスタンダード・コレクション」。またですか、こういうの。企画が枯渇したようにしか思えないが、新しく編集者になった方がやりたかったのかな。やはり王道ですから。でも何かひねりを入れないといけないと思ったのでしょう、①基本コレクション究極の名盤50、②交響曲の神々ベートーヴェンブルックナーマーラーの名盤20、③さらに広がる交響曲の世界(30枚)、の3部構成。
 ①と②は満津岡信育氏、佐伯茂樹氏、相場ひろ氏の3人による鼎談方式で、③はテーマ別に1人の選者が3枚ずつ選ぶ方式。
 これで「21世紀のスタンダード」ってい言われてもねぇ。一体どれだけの人がそう思うでしょうか。①②だってこの3人ですから、無理して「スタンダード」にこじつけてるけど、なかなか厳しい。③は完全に行っちゃってて、とても「スタンダード」とは言えないでしょう。
 一番の収穫は、佐伯氏と相場氏の写真が見られたこと。今まで見たことなかったと思う。2人とも、いかにも「悪いオヤジ」の風貌で、とてもいい感じ。おふたりとも、満津岡化(というか諸石化)しないでほしい。

 その諸石氏は、今月号でもご療養とのことで交響曲の月評は一部のみ。どうぞ、無理をなさらないで、ゆっくりお休みください。誰も期待してませんから。

 特別企画は「追悼 ネヴィル・マリナー」。急な訃報でしたが、穏やかな最期だったそうです。92歳だったんですね。随分お世話になりました。クラシック音楽を聴くようになるきっかけはマリナーの演奏でしたから。ご冥福をお祈りします。
 思いでの1枚ということで15名の方の「いちばんよく聴いたディスク」が挙げられてますが、さすが、どれもひねりの効いたものばかり。確かに、珍しい曲もたくさん録音してましたが、もっとスタンダードなレパートリーでの功績も紹介してほしかった。これは企画ミスでしょう。
 私はやはりマリナーといえばモーツァルト。特に映画「アマデウス」のサントラとブレンデルとのピアノ協奏曲全集は宝物です。ほかにお勧めしておきたいのは、パッヘルベルのカノン。1973年録音のEMI盤(現ワーナー)と1984年録音のフィリップス盤(現デッカ)があるが、どちらも通奏低音にオルガンを使っているのが珍しい。これを聴いた後だと、チェンバロでジャラジャラやるのは品がないように思ってしまう(ゲーベルのだけは別)。73年盤がゆっくりしたテンポなのに対し、84年盤は割と早めにすっきりと演奏しているので、どちらもあった方が楽しめる。しかも、84年盤は、ジーグのあともう1度カノンを演奏するというサービスぶり。録音は、当然フィリップスの方が断然よい。

 あと面白かったのは、「レコ芸相談室」。ピリオド楽器の演奏についての質問で、①メッサ・ディ・ヴォーチェと②汚い音を出して強調する演奏について。回答者は谷戸基岩氏。
 メッサ・ディ・ヴォーチェというのは、古楽演奏で「語尾をフッと抜く」(本号28ページの佐伯氏の表現)のことだが、質問者はその奏法についてご存じなく、そういう弾き方の正当性について質問されたよう。しかし、谷戸氏の回答は、「メッサ・ディ・ヴォーチェ」という名前と、声楽の歌唱技法から来ていることと、奏者によって演奏の仕方は様々だということだけ。特に最期のところに回答のほとんどを費やしており、これでは回答になってないのでは。名前は教えたらあとは勝手に調べろということか。
 後の質問については、無理に好きになることはない、と全然回答になっていない回答。言葉遣いは一応丁寧だが、説教じみていて完全に上から目線。質問に対する回答なんだからそうなちゃうのかもしれませんが、バカにされたようで、質問者はさぞ不愉快でしょうな。
 谷戸氏というと、2016年6月号のレコ芸相談室で信時潔カンタータ「海道東征」に関する質問に対する回答について、7月号で俵孝太郎氏からひどいクレームをつけられていた人だ。まあ、私はこの論争についてはよく分からないのだが。

  要は、聞かれてもいないことをベラベラと書き連ねるのが問題なのだ。編集部は、的確な回答になっているかどうか、中身をチェックしないのだろうか。