1992年のアバド指揮ベルリン・フィル公演

 古いビデオテープを漁っていたら,1992年にNHKで放送された外国オケの来日公演の入った1本があった。

 クーベリックチェコ・フィル,アバドベルリン・フィルウェルザー=メストロンドン・フィルシノーポリウィーン・フィル。どれも懐かしい,当時はかなり話題となった公演だ。

 その中で,アバドベルリン・フィルブラームス・プロが一番強烈だった。

 

 1992年1月25日にサントリーホールで行われた公演で,前半はムローヴァの独奏によるヴァイオリン協奏曲,後半は交響曲第2番,アンコールにハンガリー舞曲第1番,というプログラムだった。

 ヴァイオリン協奏曲は,その後CD化されて,今でも手に入る。評価の高い演奏だが,個人的にはそれほど思い入れはなく,CDは持っているが聴くことは少なかった。

 

 今回驚いたのは交響曲第2番で,全盛期のアバドの圧倒的な演奏が記録されていた。

 その頃,ブラームスの第2番といえば,カラヤンの1986年盤が愛聴盤で,今でもそうだが,それに比べるとどの指揮者のどの演奏も薄っぺらくて満足がいかなかった。

 1992年当時も,1988年録音のアバドベルリン・フィルによるCDがイマイチだったせいで,あまり本気になって聴いていなかった気がする。

 この演奏は,テレビで放送されたほか,FMでも放送(生中継だったかもしれないが,不明)され,これもデジタル化して残してある。しかし,全然聴くことはなかった。しかし,改めてテレビ中継を観て,圧倒されっぱなしだった。

 まだカラヤンの旗本と言われた猛者たちがたくさん残っており,その顔ぶれを見るだけでもすごいのだが,今ではまず見られないであろう,サントリーホールのステージいっぱいに並んだ倍管編成のベルリン・フィルが圧倒的だ。ステージからこぼれ落ちそうなくらい奏者が並んでいるのだ。

 コンマスはスタブラーヴァとシュピーラー,ヴィオラにはクリスト,コントラバスにツェペリッツ。木管は,クラリネットのライスターこそいないが,フルートはブラウ,オーボエシェレンベルガー。ホルンはハウプトマン。そして一番凄いのが,ティンパニのフォーグラーだ。

 フォーグラーのティンパニは本当に凄い。正確無比。音色が最高。そして凄いパワー。聴いていて何とも気持ちがいい。

 1994年のヨーロッパコンサートの映像がDVDやデジタル・コンサートホールで見れるが,ここではマイクのセッティングのせいか,フォーグラーのティンパニが抑え気味で全く物足りない。開場が狭いのでオケの人数も抑えていて,サントリーホールでのような圧倒的な開放感はない。メンバーも世代交代が始まっていて,カラヤン時代にはいなかったソロ奏者が目立ち始めている頃。

 これに対して,1992年の演奏は,ちょうどアバドがHIPに興味を示して演奏スタイルを変えるなど,停滞期に入る直前で,ライブで時にもの凄い演奏を聴かせることがあった時期の最後期と言っていいだろう。

 

 この日の演奏,前半はCD化されているので,後半もCD化されないだろうか。音源は残ってないのだろうか。

 CD化は無理でも,デジタル・コンサートホールで見られるようにしてもらいたいと切に願う。

 アンコールのハンガリー舞曲も,ノリノリで凄い演奏だった。

 

 

 アバドベルリン・フィルの1990~2000年代の演奏は,ほかにもテレビ中継されたものがたくさんあるので,ぜひぜひデジタル・コンサートホールで見られるようにしてほしいと思う。