レコード芸術は大丈夫か?

 このところ,「レコード芸術」を読んでいると,すぐに分かるような誤字・脱字,人名の不統一,記載内容の誤りなどがやたらと目立つ。そもそもの原稿が間違っているということもあるのだろうが,編集段階での校正が不十分なためではないかと思う。

 

 一々メモしていないのであるが,2018年6月号で気が付いたところを幾つか挙げてみる。

 まずは84~85ページの増田良介氏のゲルギエフによるプロコフィエフ全集の記事がものすごく酷い

①84ページの1段目に「協奏曲7曲」とあるが,ピアノ協奏曲5曲,ヴァイオリン協奏曲2曲,交響的協奏曲の計8曲である。

②《イヴァン雷帝》の語りを務めているアレクセイ・ペトレンコについて,85ページの1段目に「アレクセイ・ペトレンコ(1938~2016)」とあり,続いて「この演奏のときペトレンコは78歳だったが・・・ペトレンコはこの翌年に亡くなった」と書いてあるが,「この演奏」は2016年なので,矛盾しており,どちらかが間違っている。

③85ページの3段目に「第4番は長い改訂稿だけ・・・が演奏されている」とあるが,その後に「第4番はこのセットと同じく初稿のみだった」とまた矛盾したことが書いてある。どちらが本当かこの文章だけでは分からないが,タワーレコードのホームページを見ると,作品47の方とあるので,「短い方の初稿だけ」が演奏されているというのが正しいようだ。

④同じく85ページの3段目に「ロンドン響と録音した全集では・・・ボーナス・トラックとして第7番の初稿エンディングを収めていた」とあるが,ボーナス・トラックとして日本盤にのみ収録されていたのは,改訂版の方である。

 1つの記事の中で,ざっと読んでこれだけの間違いがあるというのは,信じられない。しかも,①~③は何の予備知識なしにこの文章だけ読んでも間違いに気付くものである。おそらく,全部増田氏の原稿が間違っていたのだと思うが,校正の段階で気付いていいものだ。ほかにも気付かない間違いがあるかもしれないと思うと,安心して読めない。

 増田氏は最近レコード芸術での原稿量が急激に増えている評論家の一人だ。やっつけ仕事になっているのかもしれない。

 

 もう一つ,別のページの例だが,32ページでは,本文では「ワインガルトナー」と,ディスク紹介のところでは「ヴァインガルトナー」となっている。これまで,レコード芸術で「ヴァインガルトナー」という表記はなかったと思う。筆者の芳岡氏がヴァインガルトナーと書いていたのかどうか分からないが,完全な校正漏れだろう。

 最近,この手の間違いが非常に多い。これまで見付けたのは,別ページの記事同士,しかもまだカナ表記が定まっていないような演奏家ばかりだったと思うが,ワインガルトナーのような有名演奏家で,しかも同一ページでこのような不統一が起きるというのは,深刻だ。

 

 ほかにも,校正の問題でないが,よく見られるのは,特集ページで必ず出てくる名盤紹介のページ(いろんな評論家の推薦盤に,短いコメントが付くスタイル)で,本文で別な評論家が書いているのと同じことを能書きとして言い訳のようにダラダラ書いて,どんな演奏かほとんど書いてないものがある。読んでいてうんざりするのだが,こういうのは編集者が書き直させるべきだろう。

 こういう,特集の中で評論家が勧める名盤を数ページにわたってならべるというスタイルは,レコード芸術でよく見られるものだが,はっきり言って読むのがしんどい。やめてほしい。ああいうのは,考えた方がいいと思う。情報量も少なく,うんざりする。

 

 以前も書いたが,昔に比べて値段がすごく上がっているのにページ数はずっと減っている。それなのに間違いが増えているというのは,(手書きで入稿する人も減っているだろうに)ゆゆしき事態だ。編集部の人員が減らされているのだろうか。

 発行部数がどうなっているのか知らないが,読者は減る一方なのではないか。

 新しい読者を集めないと,ますます酷いことになると思う。もっと初心者でもとっつきやすい記事を入れるべきではないか。ちょっとした雑学的なものとか。有名なエピソードでも,意外と知らないことも多いものだ。

 あるいは,ちょっとマニアックではあるが,5月号の「レコード誕生物語」のジャクリーヌ・デュ・プレエルガー:チェロ協奏曲の記事はよかった。藤野竣介氏は,三浦淳史さんの後継者たり得る人のように思う。これからも,曲・作曲者・演奏家に対する愛にあふれた記事をお願いしたい。

 あとは,下田幸二氏の「ピアノ名曲解体新書」も好きで,単行本化してほしいと思うが,このところ取り上げる曲がややマイナーなものばかりになってきているのが残念であり心配。有名曲でも取り上げていないものがまだまだあるはずなので,バランスを取って曲選びをしてほしい。

 

追記

 2018年9月号は,レナード・バーンスタインの生誕100年特集だった。発売日に大きな本屋2軒を回ったがいずれも売り切れで買えず,Amazonで2日遅れで入手。売れているならいいのだが,入荷した冊数が減らされているようだと心配だし,困る。

 さて,特集の43ページと52ページは,写真の上に記事の文字を重ねているのだが,ものすごく見づらい。26ページのように,白抜きの文字を使うのではなく,43ページは黒字の周りを白で縁取りし,52ページは黒字の周りを微妙に白でぼかしているのだが,どちらも恐ろしく見づらく,読んでいて頭が痛くなる。デザインも大事だが,まずは読みやすさを優先してほしい。

 それと,クラシック音楽ファンならすぐおやっと思うような誤りも。26ページで紹介している交響曲第1番と28ページで紹介しているセレナードは,1977年と1978年の録音とあるので,アナログ録音のはずだが,デジタル録音と表示されている。

 どちらも再発されたばかりで,この号の巻末の新譜一覧表に出ているので確認すると,交響曲第1番は1977年のアナログ録音,セレナードは1979年のアナログ録音となっていて,セレナードはどちらかが間違っているようだ。面倒なので確認はしないが,データの正確性はレコ芸の命とも言っていいと思うので,しっかりしてほしい。