ATRACの終焉

 これまでずっと,CDのリッピングATRAC 3 Plusを使ってきた。

 その一番の理由は,ギャップレス再生に対応していること。それと,曲の分割・結合が容易なことであった。もっとも,ソフトによってはギャップレス再生に対応していなかった(BeatJamなど)のだが,Media Goが出るまでのソニーのソフト(SonicStagex-アプリ)やWALKMANでは完全にギャップレスだった。

 クラシック音楽を聴くのにギャップレスは必須なわけだが,以前のMP3やAACはギャップレス再生はできなかった。今でも,MP3やAACは完全にギャップレスに対応しているわけではない。機器やソフトによる。また,AACの場合は,互換性に問題があって,拡張子が複数あり,その拡張子によって再生できなかったり,アートワークが出なかったり,文字化けしたりと,いろいろ問題があった。

 そんな中でも,非可逆圧縮のフォーマットで一番互換性等の問題がないのはMP3だったが,この4月23日で特許ライセンスが終了し,今後はどうなるか不透明になってしまった。まあ,使えなくなることはないと思うが,不安材料ではある。

 非可逆圧縮を使ってきたのは,それしかなかったということと,あっても対応機器・ソフトが少ないこと,そしてPCやWALKMANの容量の問題だったので,これらが解決すれば,音質的に有利な可逆圧縮に移行するのは当然の成り行きではあった。

  ということで,今年からはATRAC3 Plusはやめて,FLACリッピングすることにした。ただ残念なことに,今使っている三菱のDIATONE SOUND NAVI(MZ-100シリーズ)はギャップレス再生に対応しておらず,ほんの短い時間だが,音が途切れてしまう。KENWOODの彩速ナビはFLACのギャップレス再生に対応しているそうなので,SOUND NAVIもアップデートで対応してほしい。高音質を売りにしているのだから,音質だけでなく再生環境も最先端を行ってもらいたい。

 もう一つ言うと,SOUND NAVIはSDカードやUSBメモリに入れた曲の検索機能が非常に貧弱で,フォルダ検索以外は使えないのが非常に不満である。カテゴリーサーチという機能があるのだが,これだと,例えばまず演奏者で検索した場合,アルバム名がABCとアイウエオ順で並び,次にアルバムを選ぶと,何と,曲がABCとアイウエオ順で再生されるのだ。通常は,アルバムを選んだ場合,曲はトラック番号順に並ぶのが普通である。というか,当たり前だろう。なので,カテゴリーサーチは全く使えない。トラック番号順に演奏させるには,トラック番号付きでファイルを作成し(普通はそのようにリッピングするだろう),フォルダ検索でやるしかない。これは結構不便だ。

 

 本題に入る。FLACへの移行は当然の流れだったとして,心配なのは,これまで録りためたATRAC系(MDのATRACからATRAC3 Plusまでを含めて,以下こう言う。)のファイルがいつまで使えるのかということだ。MP3,AACWMAなどはほとんど心配ないと思うが,ATRAC系はそうではない。対応するソフトや機器が少ないのだ。しかも,ソニーの機器でも再生できない方が多いという,とってもふざけた状況になっている。このことについて書いておく。

 既に,スマホXperiaシリーズ)でATRAC系は再生できなくなっている(以前はできるように聞いていたが,持ってないのでよく分からない)。

 今,問題なく再生できるのは,WALKMANx-アプリだけなのだ(SonicStage CPも使っているが,サポートは終了していて,手に入らない。)。Media Goは,ギャップレス再生に完全対応していないし,再生だけでリッピングはできない。BeatJamも「for carrozzeria」以外は終了している。

 なぜこのようなことになってしまったのだろう。ソニーらしい問題があるように思う。

  ソニーは,WALKMAN,MDステレオ,moraではATRAC系を採用していたが,それ以外の,ネットワークオーディオプレーヤー,マルチメディアプレーヤー・レコーダー,AVアンプなどでは,早い段階からATRAC系を排除していた。おそらく,ソニー内部の縦割りのせいではないかと思う。ソニー全社挙げてATRAC系を盛り立てなければならないのに,そういう態勢になっていなかった。まるで,ATRAC系は使うなと言わんばかり。ユーザーを完全に置き去りにしていた。

 ATRAC系は,規格が乱立したきらいはあるが,MD(特に,Net MD)から移行しやすい,再生互換性の問題が少ないなどのメリットがあったが,特にソニーがmoraで強力な著作権保護をつけようとしたことが嫌われるということはあった。しかし,自分でリッピングするのであれば著作権保護はつけなくてもリッピングできたし,moraも後からは著作権保護なしの配信に切り替えた。

 しかし,ソニー全社を挙げた応援態勢が敷かれることはなく,どんどん劣勢になり,moraがAACに切り替えたことで,実質的に終わってしまった。

 

 MDとATRAC系のメリットは上記のほかにもあり,編集のしやすさ,扱いやすさ,PCに吸い上げることの容易さなどが挙げられる。

 PCへの吸上げについては,Hi-MD WALKMAN MZ-RH1(今聴いても,音質は素晴らしい!)を使うと簡単にでき,ATRAC系では著作権保護がかかって取扱いが不便であるが,吸上げと同時にリニアPCM(wav)に変換すると,著作権保護が外せるという裏技的な機能もあった。

 

 また,ATRAC系では,ロスレスATRAC3 Advanced Losslessというものもあったが,既にATRAC系が劣勢になった規格で,ロッシー部分を取り出して機器に転送できるなど,面白い機能はあったが,しかしそんな需要はほとんどなく,FLACなどよりファイルサイズが大きくなることもあり,carrozzeriaのナビに採用されたりはしたものの(現在は外されているようだ),ほとんど使われずに消えていった。

 

 このように,いいものを持っていながら結局天下を取れなかったのは,規格が乱立するといった戦略のまずさもあるが,一番は,ソニー内部でATRAC系を何とかしようという態勢が取れなかったということのように思う。

 こういう,フォーマット争いでの会社としてのだらしなさは,ベータマックスからずっと続いているように思う。DVDでは,独自に+R,+RWという規格を推したがほぼ相手にされず,メモリースティックもSDカードに敗れ,ブルーレイでは,HD DVDに勝利したものの実際は他社製品で作成したものとの間に互換性の問題があったり,全く懲りない会社である。

 

 今後,ATRAC系が復活することはまず考えられないが,少なくとも,WALKMANとPCのリッピングソフト(x-アプリMedia Go)では,未来永劫,間違いなく使えるようにしてもらいたい。そしてできれば,ソニー製のオーディオ機器やスマホでは,ATRAC系も再生できるようにしてほしい。