原発事故による損害と損害賠償による代位-財物賠償による所有権の移転の問題-(4)

まとめ

 ここでは、東京電力福島第一原子力発電所事故におけるいわゆる「財物賠償」と「損害賠償による代位」の関係を見てきた。

 一番気がかりなのは、現在の東京電力の取扱いより、避難地域の財物(特に土地・建物)の所有権がはっきりせず、帰還者が安心して住めなくなることである。帰還者については、東京電力は所有権を取得しないと言っているのだから問題ないだろうと思われるかもしれないが、法的な争いというのはどこでどう起きるか分からないのであって、大抵は予想もしないところから発生し、関係なさそうな人が巻き込まれてひどい目に遭うことは有り得るのである。帰還して頑張っている方が、気が付いたらトラブルに巻き込まれており、土地・建物が取られていた(例えば東京電力の債権者から)といったことは決してあってはならない。

 また、財物賠償と中間貯蔵施設などの公共用地としての買収によって、賠償金の二重取りと避難されることも極力避けなければならない。そう言われないためのきちんとした理論武装が必要である。簡単な方法としては、ADRの事例にあったように、若干なりとも賠償金の額を評価額よりも低くし(例えば99%)、全額支払われていないとすることも検討すべきだった。今となっては遅いのだが。
 賠償金の額については、そもそも低すぎるとも言われており(私には分からないが)、それなのに二重取りと批判されるのは気の毒である。本当に適正な価格で賠償されているのかも検証し続ける必要があると思う。

 さらには、土地等の譲渡による一層の所有権の不明確化という問題もある。避難者から土地等を取得したものが、土地の所有権をめぐってトラブルに巻き込まれる可能性もある。

 今のところ、表だって所有権をめぐってのトラブルは起きていないようだが、いずれは訴訟に発展する事案も出てくるものと思われる。これに関する訴訟が大量に起こされる可能性だってある。
 まずは、税金(固定資産税と相続税)の支払をめぐって、地方自治体や国と避難者や家族との間でトラブルになることが考えられる。既に、固定資産税の免除がなくなったら国で土地を買い取ってくれという声が出ているのであるから、実際に課税されるようになったときに、所有権がないことを主張して納税を拒否する人が出てくる可能性は高い。そのときに自治体はどうするか。相当困るはずである。自治体が困るということは、住民が困るということである。
 固定資産税が問題となる前に、相続税で同じような事態が発生する可能性もある。相続税の場合は、まずは物納を考える人も多いかもしれない。そうすると、避難地域が国有地だらけになるということも考えられる。

 こうしたトラブルによって訴訟が多発すると、異なる下級審の判決が出て、所有権がメチャクチャになるおそれもある。おそらく、訴訟は東京電力と関係ないところで、避難者と自治体や第三者との間で争われることが多いだろう。その中には、東京電力の基準のとおりに財物賠償をもらった人、ADRをやった人、訴訟まで行った人など、様々な人がいることになる。そのとき、それぞれの訴訟の当事者間には関係がないから、集団訴訟というのはないと思われる。別々に審理されて別々に判決が出される結果、ある裁判では避難者に、ある裁判では東京電力に所有権があると判断され、そのまま確定することもあるだろう。中には最高裁まで争う事例も出てくるだろうが、そこまでたどり着くには何年かかるか。最高裁まで行ったところで、全ての事案に該当するような、判例となるような判断がされるとは限らない。そうなると、永遠に所有権が不安定なままとなってしまう。
 何とも恐ろしいことではないか。こういうことが起きないようにするのが、政治家や法律家の仕事のはずなのに、それに向けた動きは全く見えない。
 もう既に賠償は進んでおり、東京電力の基準のとおり全額を受け取っている方も多いはずである。これ以上、そしてこんなことで、避難者を苦しめるようなことがないようにしてほしい。

 ここではとても結論めいたことは書けない、というか、自分の中でもまだまだ考えている最中であるが、今後もこの件については注視していき、何か動きが見られたときは追記していきたい。

 まずは、こうした問題があることを多くの人に知ってもらい、考えてもらいたいと思う。