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レコード芸術2016年12月号

 今月号の特集は「交響曲名盤100 21世紀のスタンダード・コレクション」。またですか、こういうの。企画が枯渇したようにしか思えないが、新しく編集者になった方がやりたかったのかな。やはり王道ですから。でも何かひねりを入れないといけないと思ったのでしょう、①基本コレクション究極の名盤50、②交響曲の神々ベートーヴェンブルックナーマーラーの名盤20、③さらに広がる交響曲の世界(30枚)、の3部構成。
 ①と②は満津岡信育氏、佐伯茂樹氏、相場ひろ氏の3人による鼎談方式で、③はテーマ別に1人の選者が3枚ずつ選ぶ方式。
 これで「21世紀のスタンダード」ってい言われてもねぇ。一体どれだけの人がそう思うでしょうか。①②だってこの3人ですから、無理して「スタンダード」にこじつけてるけど、なかなか厳しい。③は完全に行っちゃってて、とても「スタンダード」とは言えないでしょう。
 一番の収穫は、佐伯氏と相場氏の写真が見られたこと。今まで見たことなかったと思う。2人とも、いかにも「悪いオヤジ」の風貌で、とてもいい感じ。おふたりとも、満津岡化(というか諸石化)しないでほしい。

 その諸石氏は、今月号でもご療養とのことで交響曲の月評は一部のみ。どうぞ、無理をなさらないで、ゆっくりお休みください。誰も期待してませんから。

 特別企画は「追悼 ネヴィル・マリナー」。急な訃報でしたが、穏やかな最期だったそうです。92歳だったんですね。随分お世話になりました。クラシック音楽を聴くようになるきっかけはマリナーの演奏でしたから。ご冥福をお祈りします。
 思いでの1枚ということで15名の方の「いちばんよく聴いたディスク」が挙げられてますが、さすが、どれもひねりの効いたものばかり。確かに、珍しい曲もたくさん録音してましたが、もっとスタンダードなレパートリーでの功績も紹介してほしかった。これは企画ミスでしょう。
 私はやはりマリナーといえばモーツァルト。特に映画「アマデウス」のサントラとブレンデルとのピアノ協奏曲全集は宝物です。ほかにお勧めしておきたいのは、パッヘルベルのカノン。1973年録音のEMI盤(現ワーナー)と1984年録音のフィリップス盤(現デッカ)があるが、どちらも通奏低音にオルガンを使っているのが珍しい。これを聴いた後だと、チェンバロでジャラジャラやるのは品がないように思ってしまう(ゲーベルのだけは別)。73年盤がゆっくりしたテンポなのに対し、84年盤は割と早めにすっきりと演奏しているので、どちらもあった方が楽しめる。しかも、84年盤は、ジーグのあともう1度カノンを演奏するというサービスぶり。録音は、当然フィリップスの方が断然よい。

 あと面白かったのは、「レコ芸相談室」。ピリオド楽器の演奏についての質問で、①メッサ・ディ・ヴォーチェと②汚い音を出して強調する演奏について。回答者は谷戸基岩氏。
 メッサ・ディ・ヴォーチェというのは、古楽演奏で「語尾をフッと抜く」(本号28ページの佐伯氏の表現)のことだが、質問者はその奏法についてご存じなく、そういう弾き方の正当性について質問されたよう。しかし、谷戸氏の回答は、「メッサ・ディ・ヴォーチェ」という名前と、声楽の歌唱技法から来ていることと、奏者によって演奏の仕方は様々だということだけ。特に最期のところに回答のほとんどを費やしており、これでは回答になってないのでは。名前は教えたらあとは勝手に調べろということか。
 後の質問については、無理に好きになることはない、と全然回答になっていない回答。言葉遣いは一応丁寧だが、説教じみていて完全に上から目線。質問に対する回答なんだからそうなちゃうのかもしれませんが、バカにされたようで、質問者はさぞ不愉快でしょうな。
 谷戸氏というと、2016年6月号のレコ芸相談室で信時潔カンタータ「海道東征」に関する質問に対する回答について、7月号で俵孝太郎氏からひどいクレームをつけられていた人だ。まあ、私はこの論争についてはよく分からないのだが。

  要は、聞かれてもいないことをベラベラと書き連ねるのが問題なのだ。編集部は、的確な回答になっているかどうか、中身をチェックしないのだろうか。

 

原発事故による損害と損害賠償による代位(4)

まとめ

 ここでは、東京電力福島第一原子力発電所事故におけるいわゆる「財物賠償」と「損害賠償による代位」の関係を見てきた。

 一番気がかりなのは、現在の東京電力の取扱いより、避難地域の財物(特に土地・建物)の所有権がはっきりせず、帰還者が安心して住めなくなることである。帰還者については、東京電力は所有権を取得しないと言っているのだから問題ないだろうと思われるかもしれないが、法的な争いというのはどこでどう起きるか分からないのであって、大抵は予想もしないところから発生し、関係なさそうな人が巻き込まれてひどい目に遭うことは有り得るのである。帰還して頑張っている方が、気が付いたらトラブルに巻き込まれており、土地・建物が取られていた(例えば東京電力の債権者から)といったことは決してあってはならない。

 また、財物賠償と中間貯蔵施設などの公共用地としての買収によって、賠償金の二重取りと避難されることも極力避けなければならない。そう言われないためのきちんとした理論武装が必要である。簡単な方法としては、ADRの事例にあったように、若干なりとも賠償金の額を評価額よりも低くし(例えば99%)、全額支払われていないとすることも検討すべきだった。今となっては遅いのだが。
 賠償金の額については、そもそも低すぎるとも言われており(私には分からないが)、それなのに二重取りと批判されるのは気の毒である。本当に適正な価格で賠償されているのかも検証し続ける必要があると思う。

 さらには、土地等の譲渡による一層の所有権の不明確化という問題もある。避難者から土地等を取得したものが、土地の所有権をめぐってトラブルに巻き込まれる可能性もある。

 今のところ、表だって所有権をめぐってのトラブルは起きていないようだが、いずれは訴訟に発展する事案も出てくるものと思われる。これに関する訴訟が大量に起こされる可能性だってある。
 まずは、税金(固定資産税と相続税)の支払をめぐって、地方自治体や国と避難者や家族との間でトラブルになることが考えられる。既に、固定資産税の免除がなくなったら国で土地を買い取ってくれという声が出ているのであるから、実際に課税されるようになったときに、所有権がないことを主張して納税を拒否する人が出てくる可能性は高い。そのときに自治体はどうするか。相当困るはずである。自治体が困るということは、住民が困るということである。
 固定資産税が問題となる前に、相続税で同じような事態が発生する可能性もある。相続税の場合は、まずは物納を考える人も多いかもしれない。そうすると、避難地域が国有地だらけになるということも考えられる。

 こうしたトラブルによって訴訟が多発すると、異なる下級審の判決が出て、所有権がメチャクチャになるおそれもある。おそらく、訴訟は東京電力と関係ないところで、避難者と自治体や第三者との間で争われることが多いだろう。その中には、東京電力の基準のとおりに財物賠償をもらった人、ADRをやった人、訴訟まで行った人など、様々な人がいることになる。そのとき、それぞれの訴訟の当事者間には関係がないから、集団訴訟というのはないと思われる。別々に審理されて別々に判決が出される結果、ある裁判では避難者に、ある裁判では東京電力に所有権があると判断され、そのまま確定することもあるだろう。中には最高裁まで争う事例も出てくるだろうが、そこまでたどり着くには何年かかるか。最高裁まで行ったところで、全ての事案に該当するような、判例となるような判断がされるとは限らない。そうなると、永遠に所有権が不安定なままとなってしまう。
 何とも恐ろしいことではないか。こういうことが起きないようにするのが、政治家や法律家の仕事のはずなのに、それに向けた動きは全く見えない。
 もう既に賠償は進んでおり、東京電力の基準のとおり全額を受け取っている方も多いはずである。これ以上、そしてこんなことで、避難者を苦しめるようなことがないようにしてほしい。

 ここではとても結論めいたことは書けない、というか、自分の中でもまだまだ考えている最中であるが、今後もこの件については注視していき、何か動きが見られたときは追記していきたい。

 まずは、こうした問題があることを多くの人に知ってもらい、考えてもらいたいと思う。

 

 

原発事故による損害と損害賠償による代位(3)

原発事故の財物賠償における賠償者代位の現状

 自分はいわゆる財物賠償をもらえる所には住んでいなかったので、避難者と東京電力の間で実際にどのような手続が行われているのか、正確なところは分からない。
 今回、公開されている資料で調べた範囲で、情報を整理しておきたい。

1 中間指針第二次追補
 これは、平成24年3月16日に原子力損害賠償紛争審査会(原賠審)が公表した「東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針第二次追補(政府による避難区域等の見直し等に係る損害について)」というもので、ここでいわゆる財物賠償についての考え方が示されている。
 この中間指針第二次追補では、「帰還困難区域内の不動産に係る財物価値については、本件事故発生直前の価値を基準として本件事故により100パーセント減少(全損)したものと推認することができるものとする」として、原賠審の立場上か分りにくい言い方になっているが、要するに、帰還困難区域の不動産についてはその価額の全部について損害賠償を支払うべきあるとの方針が示されている。
 一方、居住制限区域内及び避難指示解除準備区域については、「避難指示解除までの期間等を考慮して、本件事故発生直前の価値を基準として本件事故により一定程度減少したものと推認することができるものとする」としており、これだけではよく分からないのだが、実際には後述のとおり6年で全損扱いすることとされており、平成29年3月11日以降に避難指示が解除されれば全損扱いされることになっている。今のところ、川俣町と飯舘村の居住制限区域内及び避難指示解除準備区域が、全損扱いになると決まっている。


2 中間指針第二次追補Q&A集
 これは、文部科学省の原賠審関係のサイトに掲載されているもので、作成者は明記されていないが、原賠審がまとめたものと思われる。
 その中に、「問13.帰還困難区域における不動産価値が全額賠償された場合、所有権は東京電力株式会社に移転するのか。」という問いがあり、その答えは、「2.特段の取り決めをせずに不動産の価値の全額の賠償を受けた場合、不動産の所有権は賠償を支払った者(東京電力株式会社)に移転するのが原則です(民法第422条:損害賠償による代位)が、賠償に当たり事前に当事者間で話し合いを行うことによって所有権が移転するかどうかを決めることが可能と考えられます。」とある。
 つまり、原賠審は、民法422条の類推適用及びその任意規定性を認めているということである。したがって、東京電力と避難者の間できちんと契約を交わせば、無条件に所有権を避難者に残すことが可能との見解である。任意規定と解すべきかどうかには疑問もあるが、このとおりにきちんと当事者間で契約しておけば、中間貯蔵施設用地等での二重取りの問題はあるが、少なくとも、後になって避難者側から所有権が東京電力にあることを主張してくるといったトラブルはほぼ発生しないはずである。しかし、そうなっているのかどうか。つまり、きちんとした手続で「賠償に当たり事前に当事者間で話し合いを行うことによって所有権が移転するかどうかを決め」ているのかどうか。


3 東京電力の説明
 避難者に送付されている書類は手に入らないので、公表されている(インターネットで手に入る)手がかりから東京電力の説明内容を探ってみたい。

まず、東京電力が平成25年3月29日にプレスリリースした「宅地・建物・借地権等の賠償に係るご請求手続きの開始について」において、「*5 避難指示解除までの期間に応じた価値の減少分を算出するため、当社事故発生時から避難指示の解除見込み時期までの月数を分子(1月未満の日数については、1月とさせていただきます)、72ヶ月を分母として算定した数値。ただし、算定した結果が1を超える場合、避難指示期間割合は1とさせていただきます。また、避難指示解除の見込み時期について、事前に決定がない場合、居住制限区域は36/72、避難指示解除準備区域は24/72を標準とさせていただきます。なお、宅地・建物につきましては、事故発生当時の価値を全額賠償した後も、原則として、引き続きご請求者さまにご所有いただきますが、避難指示解除までの間は、公共の用に供する場合等を除き第三者への譲渡を制限すること等についてご承諾をお願いいたします。」との記載がある。
 ここでは3つのことを言っており、まず、①72か月、すなわち6年で全損扱いにするということ。次に、②全額賠償した後も東京電力が所有権を取得する意思がないこと、そして、③避難指示解除までの間は譲渡制限することに承諾を求めていること、の3点である。
 ここで問題にしているのは②なのでそこに話を絞るが、これだけでは何のことやらさっぱり分からない。

次に、平成25年3月に経済産業省が出した「新しい賠償基準について(避難指示区域内から避難されている方々へのご説明資料)」(平成25年3月)がある。これによると、宅地・住宅(建物)について、「東京電力は、宅地・住宅(建物)の賠償について、以下の事項を公表しています。」として、「なお、宅地・住宅(建物)は、全額賠償した後も、原則として所有権の移転は求めませんが、避難指示が解除され、一般的な土地取引が開始されるまでは、相続や公的な用地買収を除く、第三者への譲渡、転売等を控えていただく必要があります。」との記載がある。おそらく、前記東京電力のプレスリリースを受けて書いているのだろうが、所有権については言い回しが東京電力のものと異なるのが気になる。

 もう一つ、「司法書士菅波佳子のブログ」の平成25年4月9日の記事でこの問題を扱っており、この方は東京電力から避難者に送られた請求関係書類の現物を御覧になっているようなのだが、そこで、「東京電力(加害者)が一律に所有権を住民に残す扱いとしています。」と書いている。しかし、記載はこれだけで、請求関係書類に具体的にどのように書いているのかはっきりしないので、正確なところはよく分からない。
 現物を見てこのように書かれているので、少なくとも、東京電力が一方的に所有権はいらないと言っているだけで、避難者に所有権の取扱いの判断を委ねるような記載にはなっていないのではないかと思われる。このような対応で十分とは到底思えない。
 仮に、上記の程度の説明しかないのであれば、後々、所有権がいらないと考える方から、東京電力ときちんと合意していないことを理由に所有権が東京電力に移ったと主張されたり、あるいは東京電力から十分な説明を受けておらず重大な錯誤があるので和解契約は無効だと主張されれば、東京電力に勝ち目はないのではないか。


4 原賠審の見解
 原賠審の議事録はインターネットで公表されているが、財物賠償の基準を決めるに当たって賠償者代位の問題を検討した形跡は見られなかった。
 その代わり、財物賠償の指針を出した後、いわゆる住居確保損害について審議する中で、この問題が一部の委員から取り上げられている。
 平成25年12月26日の第39回原子力損害賠償紛争審査会において、大谷委員が、「賠償者の代位の問題を解決しないでこれを結論付けていいのか」と問題提起している。これに対して、能見委員長(当時)は、「賠償を受けたときに、賠償者の方に所有権が移転するのか、それとも、賠償を受けた被災者に所有権が残るのかという問題については、何度か御議論いただきましたけれども、審査会としては、この問題について、どちらの立場を取るというわけでもなく、その点は実は余りもう深入りはしないということでございます。」、「この賠償者の代位というのが、今までは全損賠償しないと代位は生じないというふうに考えていたけれども、本当はいろんな考え方はあり得て、一部賠償しても割合的に移転するという考え方もあり得るかもしれないので、代位の問題というのは、ここの審査会では立ち入ることができない問題ですよね。」と発言し、原賠審ではこの問題を議論しないこととした。
 しかし、賠償者代位の問題は、財物賠償の前提として非常に重要な問題であり、この問題を放置したまま議論を進めるというのは余りにも無責任ではないか。もちろん、法解釈あるいは立法に関わる内容であり、原賠審の結論が全てではないが、少なくとも明確に問題提起すべきであった。
 能見委員長は、割合的移転の考え方についても触れているが、物については一部賠償があっても一部代位は生じないと一般に解されており、そうだとすると割合的移転というのはあり得ない。民法の大家である能見委員長が知らないはずはなく、あえてこの話を出して議論を避けているのには、何か政治的な意図を感じざるを得ない。


5 福島県議会全員協議会
 これも、財物賠償ではなく、住居確保損害の際の議論であるが、平成26年8月18日の福島県議会全員協議会において、勅使河原議員が「確認のために聞くが、居住制限区域、避難指示解除準備区域に家を持つ避難者が、移住することが合理的と認められて賠償を受けたとき、賠償者に所有権が移転するのか、賠償を受けても割合分所有権が残るのか。賠償者の代位の考え方について聞く。」と質問している。
 これに対して、資源エネルギー庁原子力損害対応総合調整官は、「一般則ではあるが、民法第422条に「全損賠償した場合には所有権が代位する」旨の規定がある。しかし実際は、第四次追補以前の財物賠償について、東京電力(株)が全損賠償を行う場合でも所有権は取得していない。したがって、もともとの財物賠償の段階でも、東京電力㈱は所有権を取得することなく、本人に残したまま賠償している。(中略)今回の第四次追補に基づく賠償においても所有権を取得する予定はない。」、また、居住制限区域及び避難指示解除準備区域についても、「解除見込み時期は4~5年となっているが、財物賠償は6年で全損となっている。そのため、仮に居住制限区域の年数が延びて6年となった場合、全損の賠償金額となる。ただ、所有権の代位については、帰還困難区域と同様、行う予定はない。」と回答している。
 避難者との合意が必要であるという大原則を無視し、東京電力のやり方をそのまま追認しただけの、無責任な回答である。


6 ADR事例
 原発被災者弁護団・和解事例集Ⅰに、大熊町での建物の事例として、「損害賠償による代位(民法422条)を考慮し現在の価値をその5%と見積もり、これを控除した約1340万円の内払いを提案し和解成立」という事例がある。
 おそらくこれは東京電力による財物賠償が始まる前の事例であると思われるが、既にこのような事例があったということである。
しかし、その後、賠償者代位を考慮して和解した事例は掲載されていない。この弁護団の弁護士たちは、この問題をどう考えているのだろうか。何も問題ないというのだろうか。

 また、福島県弁護士会原子力発電所事故被害者救済支援センター運営委員会が公表している「原子力損害賠償紛争解決センター和解事例の分析Ver.2」(平成25年8月19日)には、「和解事例をみると、実質的に使用不能となった機器、資材、棚卸資産等が財物損害とされており(中略)あえて、財物の所有権留保条項を付記している事例も認められる(和解事例200、403)。」との記載があるが、それ以上の説明はない。


7 その他
 インターネットで調べた範囲で、この件に関する法曹関係者の意見はどうか。
 見つけた中では、法的な観点からまともにこの問題を取り上げているのは、中所克博弁護士のツイッターの発言だけであった。簡単ではあるが、ここで主な論点はほぼ取り上げられている。中所弁護士は、「やはり「所有権は東電に移らず被害者のもの」を原則としたうえ、所有権を欲しない被害者との間では個別対応するというのが合理的だと思う」とおっしゃるが、理論的には、先に述べたとおり、代位を原則としないと(東京電力に所有権が移るのを原則としないと)現行の法体系との整合性は取れなくなると思う。
 また、最後に、「私は、交換価値の金銭評価分を払っただけでは不動産賠償の全額を賠償したことにならないと考える」とお書きになっている。すなわち、全額支払ったという前提を覆すわけである。この考え方は当然あると思うし、魅力的である。私も、更に理論的な整理は必要だが、最後はそこに行きつくような気はする。
 しかし、国と東京電力は絶対にこの考え方は認めない(全額支払っていないことになってしまうので、当然である)だろうし、今後この問題を巡って問題が生じるとすると、所有権が東京電力に移ったことを主張する避難者の方から起こされることになると思われるが、その方たちは全額支払われたとしたいので、この考え方はとらないだろう。

 もう一つは、前述の菅波司法書士のブログがある。ここではいろいろな材料が提供されていて、今回非常に参考にさせてもらったので、一度御覧いただきたいが、残念ながら、疑問点が並べられているだけで、筆者の法的な観点からの見解は示されておらず、法律家の書かれたものとしては突込みが甘く残念である。
 なお、同ブログには、菅波氏の所属する福島県司法書士会の宣伝があるが、同会のホームページにある「財物(土地・建物・家財等)と東電賠償Q&A」にはこの代位の問題は全く取り上げられておらず、こちらも期待外れで残念である。

 それにしても、法曹関係者がこの問題を取り上げているのがたったこれだけとは。

 

 

原発事故による損害と損害賠償による代位(2)

民法の規定

 不法行為により物が毀損され、加害者が損害賠償としてその全額を被害者に支払った場合のその物の権利(所有権等)については、民法に明文の規定はない。
 一方、債務不履行の場合には、民法422条に規定があり、債務者がその物について当然に債権者に代位するとされている(賠償者代位)。代位というと分かりづらいが、要するに、代わって権利等を取得するということだ。例えば、Aという人が10万円の腕時計をBという人に寄託して(預けて)いたが、Bがその腕時計を失くしてしまった場合、Bが損害賠償として10万円をAに支払うと、その腕時計の所有権はBに移転し、その腕時計が後から発見されても、Aに返還する必要はない、ということである。

 (損害賠償による代位)
第422条 債権者が、損害賠償として、その債権の目的である物又は権利の価額の全部の支払を受けたときは、債務者は、その物又は権利について当然に債権者に代位する。

 学説では、民法422条は不法行為にも類推適用されるというのが通説である。例えば、Aという人が過失によりBという人の200万円の自動車を修理不能なまでに壊してしまい、Bに損害賠償として200万円を支払えば、その自動車の所有権はAに移転する、ということである。

 民法422条が不法行為にも類推適用されることについては、被害者と加害者の間の公平の観点から妥当と考えられる。これは、被害者が賠償金を二重に利得することは許されないという考え方であり、「利得禁止の原則」とも言う。
 判例は、会社設立において発起人の重過失により設立無効の判決を受けた事例で、発起人が株式引受人に対して払込株式金額相当額を損害賠償として支払った場合に、傍論ではあるが、清算後の残余財産分配請求権について発起人が民法422条に準じて代位するとしたものがある(大審院昭和14年12月23日判決)。この判例が物を含めた不法行為一般について類推適用を認めたものかどうかは必ずしも明らかでないが、類推適用されないという理由は特段ないものと思われる。

 以上を原発事故に当てはめると、土地や建物などの財物全額について(全損扱いとして)損害賠償を受けた場合は、所有権は当然に東京電力に移ることになる。


 次に、不法行為民法422条が類推適用されるとして、それが強行規定任意規定かという問題がある。
 任意規定であれば、当事者間で民法422条の規定に反する取決めをしても有効であるから、両者の合意により所有権を被害者側に残すことも可能であるが、強行規定だとするとそうはいかなくなる。
 この点について、調べた限りではどちらだという見解は見当たらなかった。物が毀損された場合、その物に一般の市場価値はなくなっても、債権者(被害者)にとっては特別なものであり、一方債務者(加害者)にとっては全く不要なものであることもある。このような場合には、所有権を債権者側に残す(代位しない)こととしても、公平の観点からも特段問題は生じないであろう。
 したがって、不法行為民法422条を類推適用する場合にも、この規定を任意規定と解し、ただし、民法422条に反する合意の内容が公序良俗に反すると認められる場合は、その合意は無効であると解することができると思われる。
 あるいは、原則として強行規定と解すべきであるが、それが公序良俗に反しないものである場合には民法422条に反する合意も有効であるという考え方もあり得る。
 どちらの場合でも、民法422条に反する合意が認められる場合の一つの基準としては、毀損された物の市場価値がゼロかほとんどないということが考えられるが、前者の説をとれば広く、後者の説をとれば狭く解釈すべきということになる。


 以上は一般論だが、原発事故の場合の、特に土地については非常に難しい問題が生じる。いや、すでに生じている。
 例えば、避難区域において、避難者に帰還する意思がある場合はどうか。帰還するということは、全損扱いで全額について損害賠償したとしても、実際には利用可能なのであるから、市場価値が全くないとは言いがたい。しかし、原発事故のような事例において、帰還したいという住民に対し、市場価値があるから民法422条に反する合意は無効だとするのは妥当とは言いがたい。帰還する意向があるのであれば代位しないことを認められるべきではないか。しかし、実際に帰還されるのであればよいが、結局は帰還しないで第三者に売却したようなときには、二重取りの問題が起きる。「そのときは帰るつもりだった」と言われればそれまでだが、それでよいか。
 実際、中間貯蔵施設などの公共用地としての買収が予定されている地域においては、現にこの問題が発生している。表だって大きな問題にはなっていないようだが、例えば平成27年10月19日の福島民報の記事「賠償の底流-東京電力福島第一原発事故 第5部 財物(34) 一方的な基準疑問 手続きの法制化必要」では、大熊町の住民の話として、「二重取りとやっかむ人がいることは知っている」との話を載せている。
 財物賠償の金額や中間貯蔵施設の買収額は話題になるが、この二重取りの問題はほとんど表に出ず、議論もされていない。なぜだろうか。不可解極まりない。それほどアンタッチャブルな話なのだろうか。

 民法422条は、債権者に二重取りを許さないための規定であると考えられるので、現実的には二重取りを認めないと公共用地の取得(財物賠償も)が進まないという事情があるのだと思うが、法律論的には非常に問題だと思う。
 これを現状のように解釈論だけで片付けるのは無理なのではないか。やはり、原発事故に限っては、立法的に解決しないといけない問題だと思う。中間貯蔵施設用地の財源は国民の税金のはずである。東京電力の賠償金を充てているのだろうか(環境省の除染の対象となっていない河川などから出た廃棄物や土を中間貯蔵施設に搬入するには東京電力の了解がないとできないという話を聞いたことがあるが)。ろくな議論もせず、曖昧なまま(おそらく)税金が使われ続けるのは問題である。既に財物賠償の支払も、公共用地の買収も進んでおり、直ちに何とかしないと、後々とんでもないことになると思う。

 

原発事故による損害と損害賠償による代位(1)

はじめに

 東日本大震災による東京電力原子力発電所事故で自宅が帰還困難区域とされ、避難させられた方が、「もう帰るつもりはないので、土地と建物を国で買い上げてほしい」と言っているのを聞いた。今後、固定資産税が課税されるようになれば(今は免除されている)、払わないといけなくなるからだという。
 固定資産税だけでなく、相続税もあるだろうし、何かの拍子に工作物責任を問われることだってあるかもしれない。もう帰らないと決めた方にとっては、不良資産でしかないだろう。国は、帰還困難区域について、今年の8月に、復興拠点や主要道路など限られた所以外は除染しないと決めたので、尚更である。この方のおっしゃることはよく分かる。

 しかし、国がというのは、税金でということなので、それはおかしいのでは。やはり東京電力にやってもらわないと。
 と、ここまで考えて、はっと思った。この方は既に東京電力から賠償金をもらっているのではないか。東京電力は、財物賠償(聞き慣れない言葉だ)と称して、土地や建物などについても既に賠償を行っているはずだ。ADRや裁判をやっていて決着がついていないなら別だが、そうでないならば、帰還困難区域の場合、土地・建物は全損扱いでその価額の全額を賠償されているはずだ。もちろん、東京電力による評価額が低すぎるという声はあるが、一応、東京電力としては合理的に見積もった金額で賠償しているということになっている。
 ということは、賠償金を全額もらった時点で、所有権は東京電力に移っているのではないか。

 民法では、不法行為原発事故による被害は、「不法行為」に当たると考えられている)について、損害を受けた物の全額が賠償されたときに、その物の所有権等がどうなるかについて、規定を置いていない。
 一方、債務不履行における損害賠償については、民法422条に規定があり、「債権者が、損害賠償として、その債権の目的である物又は権利の価額の全部の支払を受けたときは、債務者は、その物又は権利について当然に債権者に代位する。」とされている。
 通説では(判例はないのだろう)、民法422条の規定は、不法行為の場合に類推適用されると解されている。すなわち、他人の物を壊したりして、その物の価額の全額を損害賠償として支払えば、その物の所有権は当然に加害者に移るということだ。
 以上は、民法をかじったことのある人なら、誰でも知っている話である。
 ということはつまり、東京電力から全損扱いで財物賠償を受けた物(土地・建物など)については、当然に東京電力に所有権が移転するということになる。

 冒頭に述べた方が、国で買い上げるようにと言っているということは、こういうことになっているということを知らないということだろう。なぜこのような大事なことを知らないのか。不思議でならない。
 そして、財物賠償が適切に行われれば、帰還困難区域の民有地は全部東京電力のものになってしまうということだ。これはこれで恐ろしい話ではある。

 そこでまたふと疑問が。帰還困難区域の一部では、中間貯蔵施設の建設用地として国が土地の買収を進めている。ほかにも、公共用地として買収されているところはあるだろう。新聞報道等によれば、国(環境省)は、元の所有者(住民)から買収しているはずだ。
 これは、無権利者から購入しているということにはならないのか。
 住民は、東京電力から財物賠償として賠償金をもらい、さらに、国に売却すれば売却代金がもらえるということになる。これはまたおかしい話だ。こういうことのないように、民法422条が類推適用されることになっているはずだ。

 気になったので調べてみたが、国、原子力損害賠償紛争審査会(原賠審)、東京電力弁護士会などの公表されている資料を読んでも、どうもはっきりしない。
 自分自身は財物賠償はもらっていないので、住民と東京電力の間でどういうことになっているのかは、はっきりしたことは分からない。
 調べれば調べるほど、頭がもやもやしてくる。何か怪しいし、おかしい。

 これから、この問題について、少ない資料を基に考えていきたいと思う。